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ファンたちが押し寄せた米ボールパーク、新常態に先進的対応

 米テキサス州のグレッグ・アボット知事は3月3日、「最大収容人数でのコンサートや音楽フェスティバルを再開させる」と発表した通り、4月5日には昨年新しくオープンしたグローブライフフィールドで行われた地元レンジャーズのオープニングゲームに4万人以上のファンたちが押し寄せた。新ボールパークで地元チームの登場を待ちに待った様子が伺える。(帝京大学教授・川上祐司)

 日本と異なる運営法

 2021シーズンの開幕を無事に迎えたMLB(大リーグ)チームは、各州知事の声明に勇気づけられながら各州のガイドラインに応じた安心で安全なボールパーク運営に向けて準備してきたという。その様相はわが国の「競技場」と「球場」の現場とはかなり異なって映る。

 サンフランシスコ・ジャイアンツでは、カリフォルニア州ギャビン・ニューサム知事の声明と更新された同州の「COVID(コビット)-19(新型コロナウイルス)」ガイドラインに沿って開幕に向け準備してきた。その中でもホームボールパークのオラクルパークが「GBAC STAR認証」を取得したことが挙げられる。その目的はファンやスタッフに対して、ボールパークが清潔であること、スタッフが常に安全な環境を維持するためのトレーニングを受けていることを最優先事項として認識してもらうことにあった。

 この認証はグローバル・バイオリスク諮問委員会(GBAC)が開発した国際基準の感染症対策であり既に日本国内の著名ホテルでも取得が進んでいる。オラクルパークでは衛生チェックポイントをパーク内全体に設置し、24時間年中無休のソフトウエアを介して追跡している。また、毎時最大5万4000平方フィートを消毒する静電噴霧器やパーク内42カ所の手指消毒ステーションの設置、特別なCOVID-19トレーニングの認定を受けたスタッフを配備して約1年半ぶりにファンを迎える。

 その4月9日のオープニングゲームでは同州のガイドラインによりスタジアムキャパシティの約25%の8500人に制限された。入場開始も通常より30分遅らせたファーストピッチ(プレーボールの意)の1時間30分前としたものの、その対応に入場ゲートでこれまで使用していた金属探知機の代わりに「Evolv Technology(エボルブテクノロジー)」を新たに採用してファンは並んで個別に検査を受けることなくスムーズに入場できるともに感染防止とさらなるセキュリティーが強化された。

 満席も時間の問題

 ボールパーク内の売店ではメニューは限定されるもののフード類とアルコール類は通常通り販売。これらは事前にアプリで注文して売店で受け取るかシートまで届けられ、行列や注文を待つ必要はない。“ポッド”形式といわれる2人から4人グループでチケット販売されたシートではこれまで通りの家族だんらんでの観戦を促す。

 バッティング練習も含めてスタンドインするボールは全てもらうことができ、7回のイニング・ストレッチもマスクをつけけて着席したままだがこれまで通り行われる。

 同ボールパークオペレーションのシニアマネージャーの要職に就く筆者の友人は既に新型コロナのワクチンを接種したという。「カリフォルニア州の状況は良好。近いうちに、より多くのファンをゲームに参加させることができる」と話してくれた。地元行政が旗を振りながらプロスポーツチームによる安心で安全なボールパークを通じてニューノーマル(新常態)社会を実現している。全てのボールパークが満席になるのも時間の問題であろう。スポーツ先進国のスポーツエコシステムがコロナ禍でも十分に機能している。

【プロフィル】川上祐司 かわかみ・ゆうじ 日体大卒。筑波大大学院修士課程スポーツシステム・健康マネジメント専攻修了。元アメリカンフットボール選手でオンワード時代に日本選手権(ライスボウル)優勝。富士通、筑波大大学院非常勤講師などを経て、2015年から帝京大経済学部でスポーツマネジメントに関する教鞭(きょうべん)をとっている。著書に『アメリカのスポーツ現場に学ぶマーケティング戦略-ファン・チーム・行政が生み出すスポーツ文化とビジネス』(晃洋書房)など。55歳。大阪府出身。

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