--足元の介護事業者の状況は
「東京商工リサーチの調査では、2020年の倒産件数は過去最多となっている。ただ、新型コロナウイルス感染拡大による利用控えでの倒産は7件にとどまる。慢性的な人手不足と競争激化で小規模事業者が淘汰された結果とみるのが妥当だ。介護関連のM&A(企業の合併・買収)や国内REIT(不動産投資信託)によるヘルスケア施設の取得は増えており再編が進む」
--その背景は
「団塊の世代が後期高齢者になり始めるのを前に企業が本格的な参入を図っている。少子高齢化の進行で介護ビジネスに将来性を見込んでいると思われる。ESG(環境・社会・企業統治)投資の拡大も要因だ」
--ESG投資と介護事業との関連は
「社会貢献事業などを対象とする『SDGs債』が増えている。社会的課題に取り組むプロジェクトの資金を調達するために発行される債券はソーシャルボンドと呼ばれるが、介護分野でもこうした債券で資金調達を行い、超高齢社会の課題解決に資すると目されるヘルスケア物件の取得を行う企業が現れている。介護事業者にとって資金の出し手が多様化することは追い風だ」
--業界の課題は
「介護報酬に過度に依存しない体質改善が重要だ。介護事業者の経営は介護報酬に左右されがちで、制度の見直しなどの影響を受けやすい。混合介護の提供などで保険外の利用料などの収入を確保できれば収益性も上がり、職員の待遇を上げて優秀な人材も集まる。そのためには国の規制改革による後押しも必要だ。介護ロボットなどテクノロジーを使った“科学的介護”を介護報酬上、高く評価する流れもある。積極的に取り組むことはサービスの質と収益性の向上につながる」
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いしばし・みく 東京女子大卒。2002年大和総研入社。日本株投資戦略アシスタント、日本経済(中期予測)、経済構造分析担当などを経て現職。神奈川県出身。