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ドイツ脱炭素に車業界の壁 性急なEV転換、産業空洞化を警戒

 再生可能エネルギー導入先進国のドイツでは、産業構造を転換する電気自動車(EV)の普及に対する抵抗が強く、EV化を支える次世代送電網の整備も滞っている。風力タービンと太陽光パネルが急速に電力供給の汚染物質を除去している半面、自動車が排ガスを出し続けるこの国は、脱炭素を目指す欧州全土で繰り返される問題の最も顕著な例といえる。

 省庁の足並みに乱れ

 フランスで自動車の燃料税引き上げをきっかけに始まった激しい抗議デモ「イエローベスト運動」が象徴するように、輸送手段の電動化は温室効果ガス排出量を実質ゼロにする上で最も困難な部分の一つだと欧州各国の為政者らは認識している。

 独国内の輸送による温室効果ガス排出量は現在、全体の5分の1を占める。メルケル首相は2050年までに排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」達成を目指し、中間目標として30年までに公道を走るEVを最大1000万台と、現在の20倍に増やすとともに、それを支援する次世代送電網(スマートグリッド)を増強する意向だ。

 それを実現するには気候対策の鍵を握る環境、運輸、エネルギー各省トップの協力が必要だが、それぞれの省を率いるのは政治的に異なる意図を持つ政党出身者とあって、足並みはそろわず、目標達成が危ぶまれる。

 自動車産業の中心地、南部バイエルン州を地盤とするキリスト教社会同盟(CSU)出身のシャウアー交通・デジタルインフラ相は、EV化でドイツが米国自動車産業の中枢であるデトロイトや英国のかつての工業都市を衰退させたのと同じ産業空洞化に見舞われるのを警戒し、性急なEV転換を懸念する。また、ドイツが発明し、戦後復興を主導した内燃機関技術との1世紀の長きにわたる蜜月関係を終わらせるのも渋っている。

 メルケル首相率いるキリスト教民主同盟(CDU)出身のアルトマイヤー・エネルギー相は、国内エネルギー部門の温室効果ガス排出量は首尾よく削減したが、EV普及目標を支える上で必要な送電網の迅速な改修には苦戦している。北海沖の洋上風力発電所から南部の大規模需要地への送電網建設プロジェクトは、法的な異議申し立てで頓挫しており、電力網用の蓄電池システムの建設は追い付いていない。独政府によれば、1000万台のEVを支援するには現在4万カ所余りある国内充電ステーションを30年までに100万カ所に増やす必要がある。独自動車工業会(VDA)は、週200カ所の現行設置ペースを2000カ所にする必要があると指摘する。

 ロビー活動の影響力

 この国の大いなる誇りの源であり、大量雇用を担ってきた自動車業界のロビー活動は極めて大きな影響力を持つ。VDAは自動車輸送からの二酸化炭素(CO2)排出量削減に一貫して反対しており、30年までに温室効果ガス排出量を37.5%削減する目標は「実現不可能だ」と主張。EVしかない未来戦略を退け、効率の良い内燃エンジンと合成燃料が気候変動目標達成の別の方法だと訴える。

 それでも世界の自動車産業がEV化へ急旋回する中、事態が変わりつつある兆候はある。ここ数カ月の間に独自動車大手のフォルクスワーゲン(VW)、ダイムラー、BMWは30年までに数百万台のEV販売目標を発表。VWは米テスラからEV市場での主導権を奪還する取り組みの一環として、車載電池の工場を6カ所建設する方針だ。

 また、選挙年の今年はEV化が加速する可能性がある。30年の内燃機関エンジン禁止を要求する環境政党「緑の党」は3月に行われた西部2州の州議会選挙で躍進した。

 もっとも、独自動車大手は、顧客が望む限り内燃機関エンジン車の生産を続けると表明しており、世界の環境への影響は大きい。VWは19年に自社の自動車が世界のCO2排出量のおよそ2%を占めたとの見解を示していた。(ブルームバーグ William Wilkes、Jess Shankleman)

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