高論卓説

旅工房の“逆張り経営” 危機こそ攻め、オンラインで客獲得

 旅行業界は新型コロナウイルスの影響で大打撃を受けている。最大手のJTBが昨年11月に発表した2020年9月中間連結決算では711億円の営業赤字に転落。全社員の20%程度に該当する6500人を削減する方針を明らかにした。近畿日本ツーリストを傘下に持つKNT-CTホールディングスも4~12月期で261億円の営業赤字となり、今年3月末には1376人の従業員が退社した。

 KNTはコロナを機にオンライン化が加速しコロナ後も来店者が減り続けると判断し個人向け店舗の3分の2を閉鎖、JTBも全体の25%に当たる115店舗を削減する。

 そのような中でポストコロナをにらみ新しい活路を探そうとしている企業もある。

 東証マザーズに上場している旅工房だ。業績はJTBやKNT同様、4~12月期の売上高は前年同期比94.5%減の14億8200万円。営業損益は15億3700万円の赤字に転落、厳しい経営状態が続いている。しかしポストコロナに向けた潜在的需要の掘り起こしに動き出した。

 なぜ“逆張りの経営”をあえて展開するのか。高山泰仁社長は「これまで業界の危機的状況の中で、これを逆にチャンスととらえ挑戦してきたことが、旅工房急成長の原動力となった。コロナ禍も大きなチャンスだと考えている」と話す。

 高山社長の人生は波乱に満ちたものだった。1996年に200万円の債務超過となった会社を買収し会社経営を始めるが、インターネット販売などで事業を軌道に乗せて借金を返済したとたん「9.11」で旅行業界は大打撃を受けた。このとき高山社長は収益拡大を狙って事務所を3倍に拡張、あえて攻めの姿勢を見せた。「SARS」の流行でも旅行業界は未曽有の危機に陥り、高山社長は一時リストラを宣言したが思い直し、3年分の運転資金を調達。日本旅行業協会に加盟し、チケット販売だけでなくツアー販売もできる体制を構築、ネットの普及とともに事業は急成長、2017年にはマザーズに上場した。

 そのような中で高山社長が業界史上最大の危機に直面したのは20年。新型コロナによる外出自粛要請で海外旅行が全くできない状況となった。これは旅行業界がこれまで経験したことのないことだった。 

 それでも何かできることがないかを検討、昨年5月の緊急事態宣言では無料で人気観光地別のオンライン旅会を企画した。狙いは顧客の囲い込みと潜在的なニーズの掘り起こしだ。

 旅工房の強みは、方面別に企画、予約、手配の担当者が一つのチームで協力し業務を行う「方面別組織」と政府観光局とのネットワーク。こうした強みを最大限に生かしたのが、人気観光地別のオンライン旅会だったという。

 「リアルに現地を中継して現地のスタッフなどが詳しく解説し、参加者にはツアーで回っているような臨場感が感じられるような内容になっている。中継だけでなくリアルにチャットで質問することもできる。政府観光局などの情報も踏まえ普通のツアーでは行けないようなところにも行くので、最初は9人ぐらいだったのが今では1回当たり400人から500人の申し込みが入る」(高山氏)。

 コロナ後にどこまで実需につなげることができるのか、そこが大きな課題となるだろう。 

【プロフィル】松崎隆司

 まつざき・たかし 経済ジャーナリスト。中大法卒。経済専門誌の記者、編集長などを経てフリーに。日本ペンクラブ会員。著書は『ロッテを創った男 重光武雄論』など多数。埼玉県出身。

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