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全豪テニスの感染症対策に学ぶ「主催者意識」

 現在、大学で非常勤講師という立場でスポーツビジネスを教えている。具体的には、スポーツイベントの運営管理に関わる戦略と施策について、マネジメントとマーケティングの観点から、多種多様なケーススタディーに沿って、知識、スキル、ノウハウを取り扱っている。(フリーランスプランナー・今昌司)

 平時に得られぬ経験

 新型コロナウイルス感染拡大は、現在もさまざまな産業に経済的なダメージを与え続けており、中でも私が所属するホスピタリティ・マネジメント学科の学びの舞台になっているサービス産業に対する影響が大きい。

 また、「ウィズコロナ」「アフターコロナ」における生き残り策を構築していける企画力、発想力、物事を新たに開拓していける能力こそが問われる世の中になっていることを身をもって感じている。

 特に、スポーツイベントの運営管理に関わる業務は、多種多様な産業・業界・職種の知見やノウハウを結集することが重要である。だからこそ、コロナ禍のいま、スポーツイベントの運営管理現場から得られるものは、平時には得られない貴重な経験として重要視されるべきだと考える。スポーツに限ったことではなく、あらゆるサービス産業に応用は可能であろう。

 確固たる理念、参考に

 2月にオーストラリア・メルボルンで開催されたテニスの全豪オープンでは、大坂なおみ選手の連覇に注目が集まったが、この大会で最も関心が高かったのはコロナ禍で開催された世界的イベントでの感染対策だった。ワイドショー番組では、各局ともこの話題を特集し、新聞各紙は東京五輪・パラリンピックでの感染対策の絶好の手本になると書き立てていた。

 オーストラリアは、全豪オープン開催時点までに、感染者は3万人弱、死者約900人と、日本の実態からははるかに低い感染状況に抑え込んでいたこともあり、世界的イベントの開催に対して、それほど深刻には考えていなかったかもしれない。

 しかし、選手とその関係者だけで1200人前後の来訪者がおり、世界的に海外渡航が厳密に制限されている中で、水際対策だけでも大きな負担となっていたことは想像にたやすい。結果として、「ここまでやるか」というまでに徹底した対策を、大会主催者は開幕前から終了まで、レベルを一度も下げることなく貫き通した。その徹底振りの裏側にあった確固たる理念こそ、参考になることだと考える。

 一つは、ビクトリア州のダニエル・アンドリュース州首相の言葉である。「ここには特別な扱いはない。ウイルスはあなたを特別扱いにはしないので、私たちも特別扱いはしない」。全豪オープンでは、出場選手たちの入国を、世界数都市からの指定チャーター便に限定し、入国後に2週間の隔離を義務付け、入国時に感染者が発生した場合、練習を含む一切の外出を制限した。複数の選手やコーチからクレームがあったが、そうしたことには一切耳を傾けず、大会役員は粛々と対応していた。

 大事なのは、徹底することなのである。開幕直前に公式ホテルで従業員1人の感染発生だけで、前哨戦となっていた大会を中止し、即座に全宿泊者のPCR検査を敢行している。

 そして、もう一つ。大会運営責任者のクレイグ・タイリー氏はこう言っている。「新型コロナについて、私たちが知っていることの一つは不確実性だ」。新型コロナは分からないものだからこそ、その現実を強く認識して行動すべきなのである。期待値をもって行動や思考を良い方向にばかり向けていくことほど、愚かなことはない、ということだ。

【プロフィル】今昌司 こん・まさし 専修大法卒。広告会社各社で営業やスポーツ事業を担当。伊藤忠商事、ナイキジャパンを経て、2002年からフリーランスで国際スポーツ大会の運営計画設計、運営実務のほか、スポーツマーケティング企画業に従事。16年から亜細亜大経営学部ホスピタリティ・マネジメント学科非常勤講師も務める。

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