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中国市場の「過大評価」当局は警戒

 中国の2021年1~3月期の実質国内総生産(GDP)成長率は、前年同期比プラス18.3%と四半期ベースで過去最高の伸びとなった。当局はこれを受けて「今年の中国経済は良いスタートを切った」との見方を示す一方、「内需の回復基盤は依然盤石ではない」との認識を示すなど、表面的な数字と対照的な姿勢をみせた。なお、成長率の伸びについては統計上の「トリック」が大きく影響している点に留意する必要がある。当局が慎重な見方を示す背景には、仮に金融市場が足元の景気認識を過大評価して政策の「正常化」を意識すれば、それに伴う反応が景気回復に水を差すことを懸念していると捉えられる。(第一生命経済研究所・西浜徹)

 世界経済は新型コロナウイルスワクチンの接種が広がりをみせる一方、新興国で変異株による感染再拡大の動きがみられるなど不透明感が高まっている。こうしたなか、中国では新型コロナの封じ込めが進んでおり、幅広い経済活動も正常化するなど「ポスト・コロナ」の世界におけるフロントランナーとなっている。こうしたなか、今年1~3月期の実質GDP成長率は前年同期比プラス18.3%と大幅に加速し、四半期ベースの成長率として過去最高の伸びとなった。

 反動で「最高」に

 「過去最高の伸び率」ということは、一見すれば中国経済が一段と加速感を強めているとの印象を与える。ただし、中国政府は前年同期比ベースの成長率を公表しているが、日本を含めて主要国では前期比年率ベースの成長率を公表するなど「尺度」が異なる点に注意する必要がある。特に、昨年の1~3月期は新型コロナ感染拡大の影響で初めてのマイナス成長となるなど下振れしており、今年はその反動で上振れしやすいことも過去最高の伸びにつながったと考えられる。

 中国政府はここ数年、季節調整値ベースの前期比の実質GDP成長率を公表しており、今年1~3月期はプラス0.6%と前期(同プラス3.2%)から拡大ペースが鈍化している。これを基に年率換算ベースの成長率を試算するとプラス2.4%程度にとどまり、昨年4~6月期以降は3四半期連続で10%を上回る高い伸びが続いてきた状況から大きく鈍化しており、16年以降でも昨年1~3月期を除けば最も低い伸びにとどまる。よって、前年比ベースの成長率は過去最高水準となっている一方、前期比年率ベースでみれば景気は「踊り場」を迎えたと捉えることができる。

 先行きに依然懸念

 中国政府は足元の景気動向について「今年の中国経済は良いスタートを切っており、生産および需要の両面が牽引(けんいん)役になっている」との認識を示す一方、先行きについては「内需の回復基盤は依然として盤石な状態にはない」として、特に雇用をめぐる不透明感に懸念を示している。雇用環境をめぐっては、依然として若年層を中心に厳しい状況が続いている。今年は大学の新卒者が1000万人を上回るなど過去最高となる見通しの一方、労働需給のミスマッチは拡大しており、先行きにおける家計消費の回復の足かせとなることが懸念される。

 政府が慎重姿勢を崩していない背景には、仮に金融市場が足元の中国経済を実態以上に過大評価すれば、新型コロナ対策として実施されている財政および金融政策を通じた下支え策の「正常化」が意識されることへの警戒がある。国際金融市場では、米国経済の回復期待を背景に米長期金利が上昇したが、中国金融市場においても昨年末以降金利が高止まりしており、景気回復の動きに冷や水を浴びせることが懸念される。

 なお、足元ではマネーサプライの伸びが鈍化しており、金利上昇によって金融緩和の度合いが徐々に後退していることが影響している可能性もある。政府は3月に開催した全国人民代表大会(全人代)において、政策運営をめぐって「急激な変更はない」との姿勢を示しており、中国政府も今後は「市場との対話」を意識した対応を迫られていることを意味しているといえよう。

【プロフィル】西浜徹 にしはま・とおる 一橋大経卒。2001年国際協力銀行入行。08年第一生命経済研究所入社、15年から経済調査部主席エコノミスト。新興国や資源国のマクロ経済・政治情勢分析を担当。43歳。福岡県出身。

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