社説で経済を読む

CO2、46%削減 「京都」の二の舞いにならぬか

 菅義偉首相は、4月にバイデン米大統領が主宰したオンラインの気候変動サミットで、2030年度の二酸化炭素(CO2)に代表される温室効果ガスの排出量を13年度比で46%削減すると表明した。(産経新聞客員論説委員・五十嵐徹)

 首相はサミットで「これまでの目標(26%削減)を70%以上引き上げるトップレベルの野心的な目標を実現し、世界の世論をリードしていきたい」と胸を張り、「さらに50%の高みに向けて挑戦を続けていく」と述べた。

 これに対して4月25日付朝日社説は「実現へのハードルは高い。乗り越える道筋を早期に描く責務が、首相にはある」と注文しつつも「従来を大幅に上回る目標を世界に約束したことは評価できる」と賛意を示した。

 同日付毎日社説は、欧州連合(EU)や米国が50%超えの目標を示したことを引き合いに「日本の数値は、先進国としては物足りないとの指摘もある」と削減幅のさらなる拡大も求めた。

 原発の役割を明確に

 だが、朝毎のような見方にキヤノングローバル戦略研究所研究主幹の杉山大志氏は、4月29日付の産経「正論」で「米国が50%乃至(ないし)52%としたのに横並びにしただけだ」と突き放す。

 杉山氏は、1997年の「京都議定書」や2015年の温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」を例に「何れも米国は一旦合意したがやがて反故(ほご)にした。歩調を合わせた日本は梯子(はしご)を外された」とし、「今回も確実に同じ事になる」と前のめりの政府に警戒を促した。

 25日付の産経主張(社説)も、「ものづくり日本を支える産業界には試練の季節の到来だ」「70年代から省エネに取り組んでいた日本は削減率の高低を気にすべきでなかったが、政権内には欧米に対する『見劣り』を嫌う意見があったというのは残念だ」とし、首相の判断は「あまりに無謀、無分別」と厳しく批判した。

 11月には英国で国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)が開かれる。それまでに締約国は、2050年に排出実質ゼロの脱炭素社会を目指すとしたパリ協定で義務付けられている「30年までの国別貢献目標(NDC)のレビュー」をしなければならない。

 菅首相が示した46%削減は日本としての最新のNDCとなるが、問題は達成に向けた具体策が妥当かどうかである。なにより電源構成の見直しが必要だ。

 首相はサミットに先立つ記者団とのやりとりで「46%削減の現実性」を問われ、「積み重ねてきている政府としての数字だ」と胸を張った。だが、「目標達成に向けた原発再稼働の可能性」については、太陽光や風力といった再生可能エネルギーの活用と省エネを中心に「大胆に対策を講じていく」とはぐらかした。

 しかし、再エネは自然の気まぐれに発電を委ねるだけに、安定した電源とはいえない。現在は電源全体の2割にとどまる再エネを短期間で大幅に増やすことは果たして可能だろうか。

 太陽光発電は、平地が少ない日本では適地が限られる。住宅や工場、公共施設などの屋根を有効に使うには工夫が必要だ。期待の高い洋上風力発電も、環境への影響評価などで運転開始までには相当な時間を要するという。

 25日付日経社説は「エネルギーの安定供給を確保するために原子力発電を選択肢からはずすことはできない。経済産業省は現在作成中の次期エネルギー基本計画のなかで、原発の役割を明確にすべきだ」と指摘する。

 温暖化フェイク説も

 温暖化問題の取り組みは国家間の新たなパワーゲームといえる。日本の温室効果ガス排出量は世界全体の約3%で世界最大の排出国である中国、2位の米国が先頭に立たなければ削減は進まない。

 とりわけ世界の排出量の3割を占める中国の積極的対応が欠かせないが、習近平主席はサミットで、2030年までにCO2排出量を減少に転じ、60年までに排出量を実質ゼロにするという従来の目標を繰り返すにとどめた。

 そもそも、「気候変動説はフェイクニュースだ」とする見方も少なくない。地球物理学者でアラスカ大学名誉教授の赤祖父俊一氏は、温暖化を一方的に人的変動と決めつける現状を憂い、「自然変動を忘れて気候変動を論ずることはできない」と指摘する。

 地球温暖化問題では多角的な視点が必要だ。

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