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欧州新リーグ構想の火種はくすぶる

 尚美学園大学教授・佐野慎輔

 新型コロナウイルスはなおもスポーツ界を苦しめる。ゴールデンウイークの人流を抑えるため、11日まで東京、大阪、京都、兵庫は緊急事態宣言下にある。プロ野球やJリーグは期間中、対象地域で無観客試合が続く。9日が初日の大相撲五月場所も3日目までは無観客。4日目以降も無観客に備え、チケットは4月27日で売り止めとなった。

 海外でもスポーツイベントの無観客が続く。準決勝まで進んだ欧州チャンピオンズリーグ(ECL)は、29日の決勝戦(トルコ・イスタンブール)で観客動員を企画していると英デイリー・メールが報じたが、どうなるかはトルコ政府次第だ。

 サッカー界が震撼

 そのECL、いや世界のサッカー界を震撼(しんかん)させたのが、欧州サッカーの強豪12クラブが4月18日に発表した「欧州スーパーリーグ(ESL)」構想だ。

 構想では、スペインリーグ1部のレアル・マドリードやイングランド・プレミアリーグのマンチェスター・ユナイテッド、イタリア・セリエAのユベントスなど人気と実力を兼ね備えた名門12チームを中核として厳選した15クラブを固定。20クラブで争うECLに取って代わる大会を創設する。米金融大手のJPモルガン・チェースが出資。放送権料やスポンサー料など100億ユーロ(約1兆3300億円)以上の収入を見込み、参加クラブには総額35億ユーロの準備金を配布する。

 近年、名門クラブは人気、実力に見合う利益の分配をうけていないと欧州サッカー連盟(UEFA)批判を強めていた。構想はまさにクーデターである。

 しかし、ファンの間では「金満クラブの身勝手」とする批判が起き、英国のウイリアムズ王子が19日に「ファンの懸念を共有する」とツイート。組織や政治家なども巻き込む大騒動となった。国際サッカー連盟(FIFA)やUEFAは直ちに「参加クラブの選手を22年のワールドカップなど主要試合から除外する」との異例の声明を発表。20日には英国のジョンソン首相が「競争を妨げるカルテル」と指弾、「法的措置」をちらつかせながら関係者と話し合ったほか、イタリアやスペイン政府も懸念を表明した。そしてマンチェスター・シティーの20日の辞退を契機に各クラブも矛を収め、23日にはJPモルガン・チェースも「判断を誤った」と表明。事態は急転、収束を迎えた。

 クラブ財政悪化

 明智光秀の「三日天下」ならぬ“二日天下”に終わったESL構想だが、1990年代終盤からくすぶり続けている。背景には選手の移籍金高騰による各クラブの財政悪化がある。マンチェスターUが4億7400万ポンド、FCバルセロナは4億8800万ユーロなど多くのクラブが負債を抱え、コロナ禍による長引く無観客試合で状況はさらに悪化。収入減から破産したクラブも現れた。引き金を引いた要因である。

 事態はとりあえず収束したが名門クラブの不満が解消されたわけではない。UEFAは押さえつけるだけではなく、急ぎ対策を講じる必要に迫られた。

 肥大化するサッカービジネスのかじ取りを間違えれば欧州サッカーは分裂しかねない。新型コロナとの闘いに加え、内部抗争への対処を世界のサッカーファンが厳しく見ている。

【プロフィル】佐野慎輔

 さの・しんすけ 1954年富山県高岡市生まれ。早大卒。サンケイスポーツ代表、産経新聞編集局次長兼運動部長などを経て産経新聞客員論説委員。笹川スポーツ財団理事・上席特別研究員、日本オリンピックアカデミー理事、早大非常勤講師などを務める。専門はスポーツメディア論、スポーツ政策とスポーツ史。共著には『これからのスポーツガバナンス』(創文企画)、『スポーツフロンティアからのメッセージ』(大修館書店)など多数。

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