コロナ直言

(1)「ゼロコロナ」戦略は失敗、国は医師にインセンティブ与えよ 木村盛世氏

 新型コロナウイルスは強い感染力を持つ新たなタイプの風邪ウイルスだ。人の動きを止めれば感染は止まるが、ウイルスそのものはなくならない。それを完璧に封じ込める「ゼロコロナ」戦略は無謀だ。にもかかわらず厚生労働省などはそれを目指してきた。「感染が広がれば人流を抑制する」を繰り返すばかりで、この1年間で有効な手立てを打てなかった。

 日本は欧米や中国などに比べ、人出と感染の関係のデータ検証が進んでいない。それなのに根拠が不明確なまま、何となく、感染者数が上下したことのみで人の動きを止めたり再開させたりしてきた。根拠が分からないのに営業時間の短縮や休業を要請されても、国民は反発するだけだ。

 一方、日本は幸運にも欧米諸国よりはるかに感染者数も死者数も少ない。にもかかわらず、なぜ国民が普通の生活を送れないのか。それはコロナ医療が逼迫(ひっぱく)しているからだ。

 《経済協力開発機構(OECD)の統計によると、日本の総病床数は約164万床(2018年)と加盟国中1位。だが、コロナ対応病床は約3万床(4月21日時点の厚労省データ)しかなく、使用率はわずか1・8%にとどまっている》

 コロナ病床を手伝う意思のある医療従事者も多いはず。しかし、コロナ患者を診察する医療機関や個人へのインセンティブ(=金銭的支援)があまりに少ない。開業医にとっては、コロナ患者を診ればどんな風評が立つか分からないとの不安がある。経営を続けようと思えば、コロナ患者を受け入れない方向に走るしかない。

 医療崩壊を脱するための方法が3つある。1つ目は国が主導して医師や看護師を集め、大きなインセンティブを与えて医療逼迫地域に派遣する。2つ目は感染が落ち着いている地域への患者の地域間搬送だ。

 最後の3つ目が、多くの医療機関が携わりやすくするための新型コロナの法的位置づけの見直し。入院勧告や外出自粛などの措置を取るため「新型インフルエンザ等感染症」に分類されていることにより、医療機関も新型コロナを特別扱いせざるをえない。季節性インフルエンザと同じ「5類」とすれば、医療機関が治療に携わりやすくなる。

 ワクチンの問題もある。厚労省は国産ワクチン開発の基本的政策の整備や予算の確保を怠ってきた。結果、政府や国内の大学、医薬品メーカーに大規模な治験能力が備わらず、国際基準に届かなくなった。接種では、医学生や看護学生などを総動員して高齢者3600万人にワクチンを速やかに打つべきだ。年内に高齢者に間に合わなければ別の変異種が生まれ、ワクチンが効かず、またロックダウン(都市封鎖)もどきの政策が繰り返される。

 日々の感染者数に一喜一憂するよりも、医療を受けられるキャパシティーを広げ、一刻も早く医療崩壊を抜け出すことが先決だ。現状の政策が続けば、今後必ず同じ轍(てつ)を踏む。(聞き手 尾崎豪一)

 【プロフィル】きむら・もりよ 医師。米国ジョンズ・ホプキンス大学公衆衛生大学院を修了し、米国CDC(疾病対策センター)多施設研究プロジェクトコーディネーター、厚生労働省医系技官などを経て、現在は一般社団法人パブリックヘルス協議会代表理事。専門は健康危機管理、医療データ解析。

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 新型コロナウイルスの収束が見えない中、東京や大阪など4都府県では約1年の間に3度目となる緊急事態宣言が発令された。「蔓延防止等重点措置」では焼け石に水で、変異株の猛威にさらされた都市部では医療提供体制が逼迫。またもや住民生活や経済活動が大打撃を受けた。国民に我慢を強いた1年の間、国はやるべきことをやってきたのか。これから打つべき一手はあるのか。識者の「直言」を聞いた。((2)は明日5月7日に配信します)

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