高論卓説

「DX人材」の不足 推進役の参謀生かせないトップが課題

 「デジタル・トランスフォーメーション(DX)」人材が不足している。デジタル技術を活用して、事業モデル、業務・組織、文化などの変革を進める人材のことだ。変革を進めるにあたり、その方向性を指し示すのは組織トップの役割だ。社長自らがその役割を果たす場合もあれば、経営部門長や事業部門長が担う場合もあるだろう。方針を定めるためには、情報の収集・分析を行い、戦略を構築することが必要だ。

 しかし、一人で全てを行うのは無理であり、参謀やチームを置くことになる。世の中で特に不足しているといわれているのは、この「DX参謀」のことのようだ。DX参謀は技術にたけていることはもちろん、それを自組織に適用して変革を推進しなければならない。売り上げ向上の施策だけではなく、業務を支えるIT基盤や生産性向上の視点も持ち合わせておかなければならない。

 社外から人材を雇い入れようとしているのは、自社以外での豊富な経験が役に立つからだ。DX参謀は、当社の事業や業務の内容、組織力といった現状を理解し、経営戦略における優先順位、実現の時期・予算・体制、組織への伝達・浸透方法などについて、トップと膝詰めで議論を行う。

 だが、トップが正面から議論せず、明確な方針を定めなかったり、組織内での反対勢力が強かったりして、変革が進まない組織だとわかった瞬間、この参謀は離れていく。この組織にいなくても、実力を買ってくれる企業は他にもある。自身で新しく企業を立ち上げる道を選ぶこともできる。腕に自信のある参謀役ほど出来上がった組織の下で働くよりも、実力を生かして成果を上げることに価値を置く。社外から招聘(しょうへい)した優秀な人材が定着しない理由はこのあたりにある。

 DXを推進するために、大手企業がデジタル技術に強いベンチャー企業と事業提携する例も多い。その成否は大手企業側がどのような方針で変革を推進したいのかに依存する。目標が不明確だったり、責任者が曖昧だったりすると提携話は宙に浮く。既存の事業規模と比較した結果、提携事業を断念するケースも聞かれる。既存事業規模に匹敵する新事業・新サービスを立ち上げることなど簡単ではない。有能なDXチームを活用し、社内での人材を育成することに意義があるのだが、目の前の数字が優先される。

 採用したDX参謀を最大限生かし、提携企業の協力を最大限引き出すためには、トップの考え方や関わり方が重要だ。経営や事業部門長に上り詰めているのだから、事業や業務については長年かけて勉強してきたはずだ。だが、自身が携わってきた事業以外のこととなると、「専門外」と決め込む。「必ずうまくいくのか」「必ずもうかるのか」というのも滑稽な質問だ。変革を軌道に乗せて収益を上げることこそがトップの仕事だ。

 従来の事業モデルから脱却してDXに取り組んでいる企業は、トップ自らが社内外から情報を集め、真摯(しんし)に勉強して意思決定している。採用が簡単ではないということで、DX人材を自社で育成すると腹を決め、戦略的な人材育成プランを立てて実行に移している。DX人材の卵たちにとってみると、毎日がタフなチャレンジに違いない。だが、こういう環境で働く社員は幸せだと思う。

 表面上の宣言や号令をかけるのではなく、DX参謀が活躍できる場所を用意し、自らがDXを先導するトップこそが、不足しているDX人材そのものなのではないか。

 

【プロフィル】小塚裕史(こづか・ひろし) ビジネス・コンサルタント。京大大学院工学科修了。野村総合研究所、マッキンゼー・アンド・カンパニー、ベイカレント・コンサルティングなどを経て、2019年1月にデジタル・コネクトを設立し、代表取締役に就任。主な著書に『デジタル・トランスフォーメーションの実際』(日経BP社)。兵庫県出身。

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