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南海電鉄、音楽家支援で新会社 バンドメンバー募集サイトを分離独立へ

 関西私鉄大手の南海電気鉄道が、楽器経験者など音楽家を支援するビジネスに注力している。これまで新規事業開発プラグラムの一環として取り組んできたが、収益性が見込めることから、分離独立させることを決めた。早ければ今月末にも会社を設立する見通しだ。鉄道会社と音楽家の支援。全く接点がないように思えるが、そこには従来とは異なる多角化の推進という狙いも垣間見える。

 音楽活動休止てこに

 法人化するのは音楽バンドのメンバーをマッチングするサービス「Every Buddy(エブリバディ)」。2019年12月に楽器経験者や練習場所を探せるサイトを立ち上げた。音楽活動をやめた、または中断している楽器経験者にスポットを当て、演奏者として呼び戻すきっかけをつくるのが目的だ。現在、起業支援会社ボーンレックス(東京都千代田区)の専門家のアドバイスを受けながら、会社設立に向け準備を進めている。

 共同代表の一人でグループ会社の商業施設の店舗管理運営を手掛ける松本恵さんは30年ほど前、バンドのメンバーとしてボーカルとギターを担当していた。メジャーデビュー目前だったが一緒にバンドを組んでいたドラマーが病気により脱退、活動休止の憂き目に遭った。

 「年を重ねていくうちに生活環境も変わってしまい、仲間とのバンド活動ができなくなり、代わりのメンバー探しに奔走するケースが多いのでは」。そう考えた松本さんは、南海電鉄が立ち上げた新規事業開発プログラムへの参加を決意する。

 同年2月に開かれたプログラムに関する説明会には100人ほどが集まった。松本さんの隣には、もう一人の共同代表となる大橋優也さんがいた。当時、工務部で保線業務に従事していた大橋さんも音楽との接点があった。もともとは漫才師を目指し、数多くのオーディションを受けるも落選の日々。そんな大橋さんを救ったのはシンガー・ソングライター、ハナレグミの「光と影」という曲。「落ち込んでいた私を励まし、奮い立たせてくれた。音楽の力を感じた」と話す。

 サイトには現在約700人の楽器経験者と大阪市内を中心に約50カ所のライブハウスや練習場となるスタジオが登録。メンバー探しや練習場探しなど、バンドが抱える困り事の解決に役立っている。

 多角化モデルに変化

 昨年来の新型コロナウイルスの流行で、多くのライブハウスやスタジオの経営が危機にひんした。閉鎖が相次ぐ中、少しでも支えたいとの思いから、オリジナルのリストバンドを製作。材料費などを除いた売上高の8割を大阪市内のライブハウスなどに寄付した。

 こうした活動が知られるようになり、記録媒体製造大手のマクセルホールディングスから協業の話が舞い込む。同社と共同でラジオCMコンテストを実施した。松本さんは「音楽活動をする誰もが楽曲を創作、発表できる場を提供することで、少しでも音楽の世界を元気づけられたら」と話す。今は会社設立を念頭に南海電鉄が持つ商業施設などでのイベントでの演奏会開催を模索している。

 鉄道業界は早くから経営の多角化に取り組んできた。宿泊施設や商業施設を沿線などにつくり、鉄道を利用するきっかけを生み出した。ただ少子高齢化で鉄道依存型の多角化モデルが成り立たなくなる可能性があり、全く違う視点を取り入れた新規事業の立ち上げに迫られている。

 南海電鉄の場合、19年6月に社長室に新規事業室を設置した。新規事業室の東本真奈さんは「なるべく早く市場に打って出て改善を繰り返すという、今までとは違ったビジネススタイルが求められる」と話す。社員や従業員が抱える新しいアイデアをビジネスとして形にする社内ベンチャー制度も立ち上げた。同制度を充実させるため、東京都の社内ベンチャー創出支援プロジェクト「GEMStartup(ジェムスタートアップ)」に参加する。足元では新型コロナによる輸送人員の激減に直面する鉄道各社。活路を求めて社内に埋もれたアイデアを新規事業に生かす動きは今後増えそうだ。(松村信仁)

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