高論卓説

新型コロナ対策の差 「剣」磨いた台湾と磨かなかった日本

 今週、BS11の討論番組「報道ライブ インサイドOUT」に出演した際、台湾の新型コロナウイルス対策がテーマになった。同じ出演者に昨今お茶の間ですっかりおなじみになった感染症専門家の二木芳人・昭和大学客員教授がいた。(野嶋剛)

 台湾は現在累計感染者1200人、死者12人という見事な押さえ込みを続けている。国民には公共の場所でのマスク着用などの義務はあるが、ほとんどコロナ前の日常と変わらぬ生活を送っており、国内経済へのダメージも小さい。それどころか、主力産業の半導体好況にも支えられ、2020年の経済成長率は約30年ぶりに中国を上回る3%成長を記録した。

 番組の中で、日台の差が如実に表れた原因は「剣を磨いた台湾と、磨かなかった日本」という点にあるということで、二木さんと意見の一致を見た点が特に有意義だった。

 剣を磨く、という言葉の出所は、台湾の防疫ビデオ「我們(私たち)」にある。そこで台湾の疾病管制署(CDC)の周志浩署長は「試練を一つ、また一つ、くぐり抜け、17年間、われわれは剣を磨いてきた」と語っている。故事成語の「10年磨剣」に絡めた言葉で、そのビデオが番組で流された。

 17年間の起点は03年のSARS(サーズ、重症急性呼吸器症候群)にある。当時台湾は大混乱に陥った。その時の反省から感染症は「有事」であるとの認識に立ち、法律を改正し、制度を作り、非常時組織「中央感染症指揮センター」を立ち上げた。センターには政府の強力な権限が集約され、対策を統一指揮する。有事下での劇薬的措置だが、感染症対策に限るという制限の中で、これまでデング熱や鳥インフルエンザなどの襲来のときに計7回起動され、運用経験を重ねた。

 番組の中で、台湾が過去の失敗を糧に大胆な改革を行い、地道な努力を重ねてきた結果が今日の成果につながっていると説明したところ、二木さんから、日本でも09年の新型インフルエンザのとき、当時の民主党政権に対して、有識者会議が感染症対策に関する提言をまとめた報告書を提出していることを提起された。

 そこには「国の意思決定プロセスの明確化」「保健所などの人員体制の強化」「PCRを含めた検査体制の強化」「臨時休校のあり方の検討」など、今回の新型コロナで問題になった点とぴったり重なることが書かれている。二木さんによれば、今、問題になっている水際対策やワクチン国内開発の強化まで提言には含まれているという。

 二木さんは番組で「立派な内容で必要なことは全部書いてある。今回の新型コロナ対策への提言かと思ってしまうほどです。日本は平時の時に準備してこなかった」と語った。もし、これらの提言の一部でも真摯(しんし)に実行されていたらと思わずにはいられない。

 だが、民主党時代を「悪夢」と全否定した自民党も、研究者たちも医師会も、動かなかった。当時の有識者会議には尾身茂氏ら今回のコロナ対策のメンバーも多く含まれる。共同責任の自覚はあるのだろうか。

 台湾はSARSの後の17年を無駄にせず、剣を磨き続けた。日本は、新型インフルエンザの後、剣をさびつかせ、失われた10年にした。

 もちろんそれでもコロナには苦戦しただろう。ただ、国民もやるだけやった結果ならばやむを得ないと納得し、次への反省につなげてほしいと願ったはずだ。

 だが、不作為の末のコロナ敗戦であるならば、その鬱憤はどこに向ければいいのだろうか。

 【プロフィル】野嶋剛(のじま・つよし) ジャーナリスト。大東文化大学特任教授。朝日新聞で中華圏・アジア報道に長年従事し、シンガポール支局長、台北支局長、中文網編集長などを務め、2016年からフリーに。『ふたつの故宮博物院』『銀輪の巨人 GIANT』『台湾とは何か』『なぜ台湾は新型コロナウイルスを防げたのか』『香港とは何か』など著書多数。

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