“They are refugees, aren’t they?”≪彼らはつまるところ(ヨーロッパからの)難民ではないか≫と。聴いていたわれわれは、「ウォー」と驚きの声を挙げた。言わんとしていることは明瞭であった。「アメリカが文明社会だとあなたは言うが、本当にそうか。彼らはもともとヨーロッパでは生活できずに逃げ出した難民が作った国ではないか。そういう野蛮なことが起こっても不思議ではない」という含意である。成り上がりのアメリカに対するやっかみと、多少の偏見を含んだ発言ではあったが、核心をついた返答であったと思う。
トランプ的政策の素地
すべての人たちがそうであったわけではないが、確かにアメリカの建国者の多くは、生活に困って、自由な天地を求めて、ヨーロッパからアメリカに渡った人たちであった。そしてその人たちが、先住民がところどころに住む広大な地域に人為的に創った国なのである。それぞれの母国で、既存の制度の下でうまくいかなかった人たち、それに不満だった人たち、そしてさまざまな異なった考え方や背景を持った人たちが集まった集団をまとめてアメリカが創られたのは事実である。政治の仕組みも、歴史的な過程として年月をかけて生成されたものではなく、これらの中で、ヨーロッパの知識階級であった人たちがいろいろ工夫してこれが良かろうと創り出したものである。その結果として出来上がった国や社会の仕組みは、これらの特殊の事情を反映した、多くの国と異なったものとなっている。
トランプ大統領の採った常軌を逸したと思われる各種の政策、その言動はある意味、こういう背景を持った国が内在的に持っている危険性、不安定性が顕在化したものというべきではないかと思う。賢人たちがそういう人物が出てきたり、そういう事態が生じてもなお国として「正常に」動くように仕上げた仕組みが、その想定通りに機能しなかったと見るべきではなかろうか。アメリカとは格別の関係にあるわれわれとしては、コロナ対策や大統領選挙をめぐるドタバタを批判的に見るだけではなく、そういう個人をトップに据えながらも、それへの対応で見えてきたアメリカの制度そのもの、及びそれを動かす社会の強靭性に注目すべきではなかろうか。次回以降で詳しく述べる。((2)は明日5月24日に掲載します)
【プロフィル】久保田 勇夫 くぼた・いさお 昭和17年生まれ。福岡県立修猷館高校、東京大法学部卒。オックスフォード大経済学修士。大蔵省(現財務省)に入省。国際金融局次長、関税局長、国土事務次官、都市基盤整備公団副総裁、ローン・スター・ジャパン・アクイジッションズ会長などを経て、平成18年6月に西日本シティ銀行頭取に就任。26年6月から会長。28年10月から西日本フィナンシャルホールディングス会長を兼務。