高論卓説

まもなく迎える自然災害の季節 駐留米軍に救援仰ぐのは許されないか

 自然災害の季節を迎えつつある。毎年、呪われたかのごとく、日本国中が痛めつけられる。消防、警察、自衛隊が活躍してくれても多くの犠牲者を出す。先進国の日本にあっても、自然の破壊力には手も足も出ない。「国土強靱(きょうじん)化」こそが焦眉の急である。与野党には、一体となって国民の生命と財産を救う責務がある。

 米軍海兵隊の「トモダチ作戦」を考案し、東日本大震災の津波で被災した仙台空港をわずか1カ月で復旧させた指揮者の著作を読んだ。ロバート・エルドリッヂ氏の『オキナワ論』(新潮新書)、この在沖縄米軍海兵隊の元幹部の著作は、私にとって目からウロコの内容だった。自然災害を案ずる者からすれば、新鮮な驚きを禁じ得なかった。「人道支援や災害支援について日米が相互協定を締結すべきだ」との提言が胸に響く。米軍基地には十分な機材があるのに、災害のために活用されていない現実を憂える姿に共感を覚えた。

 米軍は戦争のためにだけ駐留しているとの理解だけでは、日米関係は緊密にならない。安全保障条約に基づいて駐留する米軍と、地方自治体の相互理解と交流は不十分に映る。腫れ物に触るような不自然な関係を続けてきた歴史は、あまりにも非生産的で不幸だ。米軍は、自然災害が起きても自主的に出動できないルールで、国が動く必要がある。日本政府が駐日米大使に要請し、大使が本国政府からオーケーを取れれば出動できる仕組みになっている。

 安保反対から米軍に偏見を宿らせる日本国民も多い。基地の返還闘争などが、国民と米軍の距離を遠ざけてもきた。だが、日本の力だけでは対応できない災害に対し、米軍に救援を仰ぐ発想は許されないのだろうか。米軍の協力を容易に求めることができるよう主権国家のメンツを捨ててでも、政府は策を講じるべきだ。2年前の山口と広島の水害、岩国米軍基地(山口県岩国市)は、動けなかった。

 米軍基地をめぐって各地の問題解決は、一筋縄では進まない。570回を超える神奈川県逗子市の池子定例デモ。「米軍基地撤去、池子の森全面返還を」と共産党などが呼びかける。ベトナム戦争の終結まで、米軍は「池子弾薬庫」を使用していたが、1972年に一部が返還されたものの逗子市政を揺るがせ紆余(うよ)曲折を経て、現在は安定した協力関係にある。いや、市民の多くは米軍に感謝の感情すら芽生えさせている。

 返還された一部は、市の運動公園となり、野球場をはじめ多くのスポーツ施設や体験学習場として活用されている。2014年からは約40ヘクタールの土地が、米軍と市の共同使用となった。米軍人と家族が居住する住宅建設を認めた見返りだ。

 市は「池子の森自然公園」を共同使用地に造る。市体育協会の管理する施設で、400メートルトラックや2面の野球場、テニスコートとハイキングコース。人々の憩いの緑地となっていて、古代遺跡も保全されていた。

 陸上競技場たるトラックは、大きな皿状になっていて、調整池の役割を兼ねる。側を流れる田越川の支流が増水すれば、水はトラックに入り、川の流水量を調節する。19年の台風15、19号は関東地区にも大被害をもたらしたが、田越川も大増水。市民を氾濫から救ったのだ。毎年、3、4回は調整池に転じるという。

 あの対立の返還闘争から、大勢の逗子市民たちが参加するフレンドシップデーに見られる友好親善の催し物も多岐にわたる。各地に駐留する米軍と日本国民。親密な友好関係へと進化させるべきだと考える。

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 松浪健四郎(まつなみ・けんしろう) 日体大理事長。日体大を経て東ミシガン大留学。日大院博士課程単位取得。学生時代はレスリング選手として全日本学生、全米選手権などのタイトルを獲得。アフガニスタン国立カブール大講師。専大教授から衆院議員3期。外務政務官、文部科学副大臣を歴任。2011年から現職。韓国龍仁大名誉博士。博士。大阪府出身。

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