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「大逆転はここから始まる」 トヨタがEVより“水素車”にこだわる本当の理由 (1/3ページ)

 自動車の電動化(EVシフト)が進んでいる。「EnergyShift」発行人の前田雄大さんは「トヨタをはじめとする日本勢が電動化で出遅れているとの見方があるが、それは間違いだ。トヨタがEVよりも水素自動車(FCV)にこだわり続けているのには理由がある」という--。

 ■なぜ「EV化」ではトヨタの名前がないのか

 2016年のパリ協定の発効以後、国際社会では着々と脱炭素化が進展していた。加えて昨年9月、中国の習近平国家主席が国連総会で、2060年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を宣言。アメリカも脱炭素を全面に打ち出すバイデン政権が発足したことで、その流れは決定的となった。

 自動車のEV化はもはや世界的な潮流だ。欧州勢は2017年にいち早くガソリン車の廃止を打ち出し、ハイブリッドを飛び越していち早くEV化に着手。中国、北米もEV化とガソリン車廃止の施策を発表し、世界の主要市場はEV化という流れで一本化している。

 日本の主力産業である自動車産業も例外ではない。だが、この過熱するEV戦線に日本勢、特にその筆頭であるトヨタの存在感がないのである。

 2020年、EVを積極的に展開する米国のテスラ社の時価総額がトヨタを上回ったことは衝撃を与えた。また、2020年の世界におけるEV売上ランキングにおいて日本勢がトップ10社に入らなかったことも重なり、日本では「EV出遅れ論」もささやかれる。

 リーフを一早く開発し、EV化に10年以上も取り組んできた日産や限定的に市場投入している例を除けば、市場においてEVで勝負できている日本企業は無いに等しい。

 ドイツのVWはIDシリーズ、フォードは北米でマスタングのEVシリーズを展開。韓国は現代自動車がIONIQシリーズを投入し、中国はNIOや40万円台の低価格EVで話題となった上汽通用五菱汽車など続々と新興企業が成長している。しかし、本来そこにいるはずのトヨタの名前がない。それはなぜなのだろうか。

 ■EV化が世界の一大潮流になっているのに…

 世界がEV競争へとこの数年向かっていた間、トヨタはどこに向かっていたのか。

 結論から言えば、その答えは「水素」である。厳密には「ハイブリッドの後に水素」という構想があった。先日行われた決算報告でも、引き続きその戦略がトヨタの中核を形成していることが分かる。

 たしかに燃費の良いハイブリッド車が世界で売れているのも事実だ。トヨタの見立てはあながち間違ってはいない。しかし、EV化が世界の一大潮流になった今、なぜトヨタは“水素”に固執しているのか。それは、ハイブリッドで他の追随は許さないポジションを取ったトヨタの、次の一手への布石というべきものだと言える。

 ハイブリッド車は、ガソリンで駆動するエンジンに加え、モータ、バッテリーおよびパワーコントロールユニットを組み合わせたものだ。走行中に発電した電気をバッテリーに貯め、バッテリーの残量を使ってモーター駆動でも走る。

 図表とおり、エンジンを排して充電器を付ければEVになる。しかしトヨタはEVをHVの次の選択として選ばなかった。蓄電池は高価であり、コストがかかった。長い充電時間の割に航続距離が短いという欠点もあった。そこでたどり着いたのが、水素であった。

 ■水素に張ったトヨタは予想を外したのか

 この図表のとおり、ハイブリッド車のエンジンを燃料電池(水素を燃料に発電する装置)に置き換え、ガソリンタンクの代わりに高圧水素タンクを搭載した。それが燃料自動車(FCV)だ。自社が磨き上げたコアとなる電動化技術を生かす形で、トヨタは20年以上の研究開発を経て、2014年に初の量産型FCV「MIRAI」につながった。

 しかしその後、脱炭素化の流れは一気に進んだ。エネルギーを貯蔵する役割としての蓄電池の役割がより重要となり、性能がこの数年で急速に向上し、価格も下がった。

 課題とされていたEVの航続距離、充電時間、コストは、テスラ社がブレークスルーを見せ、航続距離は米国の環境保護局(EPA)基準で400キロ以上を確保。充電も独自の急速充電で30分強と大幅に短縮させた。価格はより安価になり、EVが競争力を持ち始めた。

 こうした世界の動きを見ると、蓄電池を搭載するEVに軍配が上がり、水素に張ったトヨタは予想を外したと見る向きも少なからずある。

 この主張は、一定程度、正しい。

 たしかに水素は扱いが難しい気体であり、まだ輸送も商業的に十分に確立したとは言えない。また、エネルギー効率の悪さというデメリットもある。ただ、後者については、水素は地球上で最も豊富な元素であり、再生可能エネルギーと水があれば、使う場所で生産することができ、デメリットは相殺できる。

 問題はコストと供給網不足、この2点だ。

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