脱炭素最前線

(中)日立「高圧直流送電」に期待

 ■再生エネ主力電源へIoTとシナジー効果狙う

 英中部ヨークシャー地方の沿岸から東へ約130キロ。北海の一角で、世界最大の洋上風力発電所ドッガーバンクウィンドファームの建設が進められている。

 ◆英洋上風力で使用

 東京23区の約2.7倍となる海上のスペースに3カ所の発電所を建設し、約280基を建てる計画だ。最も大きなタービンは高さ約250メートルもあり、最大で1万4000キロワットの電力を出力できる。2026年の完成後の発電設備容量は360万キロワットと、英国の電力需要の約5%にあたる600万世帯に供給可能となる。ドッガーバンクは英国の脱炭素化を推進する重要な国家プロジェクトだ。

 洋上風力発電で作られた大量の電気は海上の変換所で交流から直流に変換し、海底ケーブルを伝って遠方の需要地まで送電される。この重要な役割を担うのが、日立ABBパワーグリッドのHVDC(高圧直流送電)だ。

 HVDCの技術開発を進めてきた日立ABB HVDCテクノロジーズの西岡淳会長兼CEO(最高経営責任者)はドッガーバンクのプロジェクトについて、「世界最大の洋上風力系統で、非常に重要な案件になる」と気を引き締める。

 主要国が取り組む温室効果ガスのカーボンニュートラル(排出実質ゼロ)実現には再生可能エネルギーの拡大が不可欠だ。だが再生エネの適地は電力を需要地まで届ける系統が弱く、電圧が不安定になりやすい。

 そこで注目されているのが、高電圧の直流に変換することで電圧を安定化するHVDCだ。日立ABBパワーグリッドが開発したHVDCは、最新鋭のパワー半導体素子を採用したことで電力ロスを低減。長距離・大容量送電が可能となり、周波数が異なる系統の連系に適している。

 このため、鉄塔でつなぐ架空送電線が不要で、工期の短縮や景観を維持できる利点もある。HVDCは再エネの主力電源化を支える有力システムとして期待されている。

 脱炭素の動きは世界で一気に加速しており、西岡氏は「欧州、中国、北米、中南米に加え、中東、アフリカなどからも引き合いがきている」と話す。

 日立製作所も送配電網(パワーグリッド)をグループの中核事業に据え、HVDCの海外展開に力を入れている。昨年7月、日立はスイスの重電大手ABBの電力システム事業を約7500億円で買収し、日立ABBパワーグリッドを設立したのもそうした戦略の一環だ。ABBとは14年にパートナーシップ戦略を締結し、関係を深めてきた。

 ◆世界シェア首位

 日立ABBはHVDCで世界シェア首位。全世界のHVDCの200弱のプロジェクトのうち、約120に参画している。競合は独シーメンスや米ゼネラル・エレクトリック(GE)、東芝、三菱電機だが、西岡氏は日立ABBの強みについて「さまざまな顧客の課題や特殊仕様に対する経験とソリューション提供力」と話す。今後は日立が得意とするデジタル技術と融合したサービスで、競合他社と差別化を図る。

 その戦略の中核となるのが、さまざまなデータを蓄積・分析する日立独自のIoT(モノのインターネット)基盤「ルマーダ」だ。6月に就任する日立の小島啓二新社長も「日立ABBは相当、ソフトウエアの資産を持っている。ルマーダとの親和性がよく、シナジーを発揮できる。ここを強くしたい」と大きな期待を寄せる。

 今後はルマーダを活用し、変電所の予兆診断、故障予知など付加価値の高いサービスの提案も検討、HVDCの受注増を狙う。国内でも洋上風力発電の建設や電力の広域連系の動きが活発化しており、日立ABB HVDCテクノロジーズが主体となり受注獲得を目指す。

 日立はHVDC以外にもさまざまな脱炭素技術を持つ。アリステア・ドーマー副社長は「脱炭素では鉄道や(車載分野の)オートモーティブシステムの技術やサービスも期待している」と語る。

 鉄道事業ではJR東日本、トヨタ自動車とともに、燃料電池と蓄電池を電源とするハイブリッド車両を共同開発している。すでにイタリアのフィレンツェで蓄電池車両の走行試験を開始した。オートモーティブシステム事業は1月に日立子会社とホンダ系自動車部品3社の統合会社「日立アステモ」を設立。自動車の電動化の重要部品となるインバーターやモーターで高い省エネ技術を持っている。

 ドーマー副社長は「これらの分野でもデジタル技術を組み合わせ、新たな環境価値を創出したい」と話す。脱炭素技術とIT。日立は培ってきた両技術の融合で新たなカーボンフリーモビリティーの実現を目指している。(黄金崎元)

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