高論卓説

ホンダジェットの販売好調 日本が世界に誇るモノづくりのとりで

 ホンダのビジネスジェット「ホンダジェット」が、販売好調だ。2020年のデリバリー数(引き渡し済みの数)は31機となり、17年から4年連続して小型ジェット機のカテゴリーで世界トップとなった。

 最大定員が8人のホンダジェットの価格は530万ドル(20年)。16年12月に米連邦航空局(FAA)より型式証明を取得してデリバリーを開始。最大市場の北米をはじめ、欧州や中南米、東南アジア、中国、中東、インド、そして日本で販売されていて、これまで170機以上が運用されている。

 新型コロナウイルス感染拡大により、ビジネスジェット市場は一時縮小した。ホンダジェットの場合、19年のデリバリー数は36機だった。「20年上半期にはコロナ禍の影響を受けた。しかし後半からは回復できた」(ホンダ)。

 米国では、ワクチン接種が進みコロナ禍の心配が薄れ、メインユーザーである中小企業経営者や弁護士などの購買意欲が戻ってきたのが回復に寄与したようだ。

 ホンダジェット販売好調の理由について担当者は「エンジンが胴体ではなく主翼上面に配置されているため、静粛性に優れ、振動が少ない。何より、機内スペースは広く、トイレもしっかり確保されている。燃費性能が高く環境に優しい」と話す。

 この他にも、一体型複合胴体を採用し、クラス最高水準の最高速度、最大運用高度、上昇性能などを実現したのも、好調の要因だろう。

 ホンダが飛行機の開発を始めたのは1986年。本田技術研究所和光基礎技術研究センターが創設され、研究テーマとしてロボット(後のアシモ)や自動運転などとともに選ばれた。

 現在、ホンダの子会社であるホンダエアクラフトカンパニー(米ノースカロライナ州)が、事業を担っている。だが、まだ単年度で黒字化していない。運行する機数が増えるのに伴い、整備士の新規育成などでコストは増大していくためだ。さらに受注を増やしていくしかない。

 ボーイングの元経営トップが東京大学で講演した際、「航空機産業にとって最も重要な科目は経済学だ」と話したのは有名だ。初号機納入から黒字化まで、最低でも10年は要するといわれる厳しい世界だ。仮に撤退しても、ユーザーがいる限りメンテナンスを継続していかなければならない。景気変動の影響も、大きく受ける。

 それでも、航空機をやる意義は大きい。自動車と比べて航空機は、部品点数が膨大なだけではなく、付加価値も信頼性も、圧倒的に高い。大量生産型の自動車に対し、航空機は一つを超高品位に作り上げていく。モノづくりの中身が違う。

 波及効果も大きく、複合材は自動車のボンネットに使われ、新幹線の形状も航空機技術から転用されている。自動車に代わる、新しいモノづくりとも位置付けられる。

 ホンダジェットと並び注目される三菱重工業の子会社三菱航空機が手掛ける小型ジェット旅客機「スペースジェット」(SJ、旧MRJ)は開発が中断している。

 半導体やリチウムイオン電池など先端分野で劣勢に陥った日本のモノづくりにあって、ホンダジェットは守らなければならないとりででもある。ホンダはかつて自動車レースの最高峰「F1」から撤退したが、このようなことは許されない。

【プロフィル】永井隆

 ながい・たかし ジャーナリスト。明大卒。東京タイムズ記者を経て1992年からフリー。著書は『移民解禁』『EVウォーズ』『アサヒビール 30年目の逆襲』『サントリー対キリン』など多数。群馬県出身。

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