テクノロジー

なんとアレから「電気」が! 干拓地で進む侮れないバイオテクノロジー

 悪臭が問題となっている牛ふんを発電エネルギーとして活用するプロジェクトが岡山県笠岡市の笠岡湾干拓地で進んでいる。畜産農家と大阪の電気工事会社がタッグを組み、バイオマスプラントを設置し、飼育中の牛のふんを燃料にする計画だ。電力量は1200キロワット時で、牛ふんを燃料とする発電設備としては西日本最大級。中国電力に売電することで年間約3億9千万円の売り上げを見込んでいる。干拓地で飼育されている牛は約9千頭もいる。1日あたり約400トンにもなる牛ふんの悪臭は長年にわたり地域の悩みの種になっていた。プロジェクトはその軽減策としても期待を集めている。プラントは10月に着工、令和5年の操業開始を目指している。

 メタンガスで発電

 プロジェクトを進めているのは、地元畜産農家7戸などでつくる「かぶとバイオマスプラント有限責任事業組合」や大阪市の電気設備などを手掛ける「三和電気土木工事」。今年3月、笠岡市も交え、発電施設の整備・運営に関する協定を締結した。同社は大阪府庁の電気設備工事や兵庫県での太陽光発電などで実績があるという。

 事業計画によると、農家がトラックで運搬する1日約250トンの牛ふんを発酵させメタンガスを発生させる。ガスの発生過程で働く菌は酸素のない環境で生育する嫌気性の菌であるため、牛ふんの発酵は密閉空間で行われ、外部に悪臭が漏れない仕組みだ。

 発生したメタンガスを燃料としてガスエンジンを稼働させ発電。発電時に生じる熱や二酸化炭素は将来、温室栽培に利用することも視野に入れている。

 プラント敷地約3ヘクタール(笠岡市カブト中央町)を含む、総事業費約30億円は同社が全額負担。今年10月に着工し、令和5年4月に操業を開始する予定となっている。

 同社は経済産業省の固定価格買取制度(FIT)を活用し、1キロワット時あたり39円で中国電力に売電する予定。年間約3億9千万円の売り上げを見込んでいる。

 近隣から相次ぐ苦情

 岡山県南西部に位置する笠岡湾干拓地は、農林水産省が農業利用を目的に20年以上の歳月をかけて1811ヘクタールを造成、平成2年に完工した。

 これまで地元が力を入れ、畜産業の拡大を進めてきた。干拓地内の乳牛・肉牛を合わせた頭数は、10年に2627頭だったのが、20年に5967頭と右肩上がりで増え、令和2年には約9千頭にまで増加した。県内で生産される牛乳年間約9万9千トンのうち、約4割がこの干拓地で生産されている。

 畜産業の拡大とともに、深刻化していったのが牛ふんの悪臭問題だ。干拓地の近隣地域から「悪臭をどうにかしてほしい」「窓が開けられない」などの苦情が相次ぐようになった。

 市は平成24年に臭気対策チームを発足。市農政水産課は畜産農家に畜舎や設備のこまめな清掃や消臭剤の使用などを指導しているが、30~令和2年度の3年間にも43件の苦情があった。

 市の推計では、干拓地で出る牛ふんは1日約400トン。これまで牛ふんは堆肥にするしか処理方法がなく、悪臭問題は地元畜産農家にとっても大きな課題となっていた。

 愛される畜産農家に

 牛ふん発電は、事業組合の組合長を務める山本真五さん(47)が平成28年、経営していた牧場「希望園」(笠岡市カブト東町)の牛舎屋上に太陽光発電を設置する際、訪れた三和電気土木工事の担当者とバイオマス発電について話したことがきっかけに計画された。

 山本さんが「ヨーロッパのように、笠岡でも牛ふん発電ができないだろうか」と持ちかけたところ、担当者が「やってみましょう」と応じてくれた。

 アメリカやヨーロッパで牧場視察を重ねていた山本さんは、バイオマス発電についての事情にも詳しかった。「牛ふんを堆肥にするだけではなく、エネルギーとして生かしたい」と、挑戦を決めた。

 また、山本さんは「牧場は人の口に入る飲食物を作る場だ。清潔で周囲から理解される場でなくてはならない」というのが持論。これまでも、周辺住民の牧場見学や小学生が牛舎の牛を描く写生大会なども積極的に受け入れてきた。

 プロジェクトについて、山本さんは「干拓地の牛ふん全部をプラント内で密閉できるわけではないが、悪臭を軽減できると確信している。地域住民から愛される畜産農家になれれば」と期待する。

 三和電気土木工事の担当者も「嗅覚は個人差も大きく、発電が始まらないとわからないこともあるが、事業を通じ地域貢献につながればうれしく思う」と話している。(高田祐樹)

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