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トヨタは水素に活路、ホンダは「決別」 脱炭素へ探るエンジン戦略 (1/2ページ)

 気候変動問題への処方箋として期待される脱炭素に向けた、国内自動車メーカー各社の戦略の違いが鮮明になってきた。4月に社長が交代したホンダは国内メーカーで初めて、全四輪車を電気自動車(EV)と燃料電池車(FCV)にするとし、エンジンとの決別を宣言。一方、トヨタ自動車はハイブリッド車(HV)なども含めた多様な選択肢を探る。日本のエネルギー事情を踏まえれば、全面的なEV化は気候変動問題対策にならないとの見方もあり、自動車産業の中核をなしてきたエンジンの役割が本格的に問われている。

 日本で劇的な変化

 世界で販売する四輪車を2040年に全てEVとFCVにする-。

 ホンダの三部(みべ)敏宏社長は4月23日、就任後初の記者会見でエンジンとの決別を意味する目標を発表した。

 脱エンジンの前段階となる30年時点でのEV・FCV販売比率の市場別目標は、北米と中国が40%で日本は20%。いずれも35年には80%まで高める計画だ。20年の世界販売に占めるEVとFCVの比率は1%未満で、車種もまだ1つずつしかないことを考えれば、脱エンジンの取り組みが急加速することになる。

 脱エンジンはとりわけ日本市場では劇的な変化となる。日本ではHVが環境対応車として評価されて普及しているためで、三部氏は日本での電動化比率を引き上げる方策について「HVを増やすのが現実的な『解』だ」と認める。

 それでもホンダがEV・FCVによる脱エンジンを目指す背景には、欧米や中国の当局がEV中心の電動車シフトを促す規制強化を進めている事情がある。

 三部氏は「電動化事業で収益を上げられる構造を作れた会社が生き残れる」と断言。「ホンダに当たり前は期待されていない」とし、研究開発費に今後6年間で総額5兆円を投じ、EV専用工場の新設も検討する。20年代後半には独自の次世代電池の実用化を目指す考えだ。

 これと比べると、トヨタの電動化目標は慎重に見える。

 25年までに15車種のEVを販売するとしてラインアップの強化を図ってはいるが、30年の世界市場での電動車販売台数目標である800万台のうち、EV・FCVは25%にあたる200万台にとどまる。販売比率の市場別目標は、日本で10%、北米で15%。中国は35年でプラグインハイブリッド車(PHV)を含めて50%とする。いずれもホンダよりも低い水準だ。

 それでも目標の達成は容易ではなく「現在の30倍の電池の供給量が必要になる」(長田准執行役員)。トヨタは車両開発の効率化にも取り組みつつ、HVを軸とした戦略を貫く考えだ。

 レース対応にも違い

 ホンダとトヨタの違いはモータースポーツへの取り組みにも表れている。

 ホンダは既に四輪車レースの世界最高峰であるF1シリーズから21年シーズンを最後に完全撤退することを決定。経営資源の重点をEVやFCVの開発に置き、脱エンジンを進める。

 対してトヨタはエンジンに見切りをつけていない。それどころか、水素を燃料とし、二酸化炭素(CO2)を出さない、水素エンジン車の開発に乗り出すと明らかにした。

 同じく水素で走り、CO2を出さないFCVが化学反応で生み出した電気でモーターを回すのに対して、水素エンジン車はガソリンの代わりに水素を燃やして動力を得る仕組み。既存のガソリン車の部品を転用できる利点がある。

 トヨタは5月22、23日に富士スピードウェイ(静岡県小山町)で行われた24時間耐久レースに水素エンジン車を投入。豊田章男社長が自らレーサーとして参加する熱の入れようで、完走を果たした。

 約4.5キロのコースを358周し、1周のタイムで通常のエンジン車を上回る場面もあった。レースなどで収集したデータを基に課題の洗い出しを行う。

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