脱炭素最前線(下)

東芝、CO2分離回収で世界へ バイオマス発電CCS、国内普及に課題も

 福岡県の最南端に位置し、有明海に面した大牟田市。1997年に閉山した三井三池炭鉱によって、かつては石炭産業の中心地の一つとして日本の近代化を支えた。ここで今、火力発電所から二酸化炭素(CO2)を排出しないようにする最先端技術の開発が進められている。

 小型設備は実用化

 東芝のグループ会社シグマパワー有明の三川発電所(福岡県大牟田市)は2005年に石炭火力発電所として営業が開始され、17年にパームヤシ殻を主燃料とするバイオマス発電に転換。さらに昨年10月には、大規模バイオマス発電によるCCS(CO2の回収・貯留)という世界初の実証実験をスタートした。

 このプロジェクトは環境省の委託事業。発電所の隣接地にCO2を分離・回収する実証設備が建設され、東芝子会社の東芝エネルギーシステムズ(ESS)が技術開発を進めている。

 同社の技術は低温でCO2を吸収し、高温でCO2を放出するアミン液を活用する。発電所から排出されたCO2は分離・回収実証設備の吸収塔に送られる。CO2はアミン液に吸収され、CO2が取り除かれた排ガスが煙突から排出される。

 一方、CO2を吸収したアミン液は再生塔に送られ、ボイラーで加熱することでCO2を分離。分離されたCO2は冷却洗浄で水分を除去し回収される。アミン液は再び吸収塔に戻り、分離・回収が繰り返される。

 東芝ESSのCO2分離回収開発・拡販グループマネジャーの岩浅清彦氏は「三川発電所で1日に排出されるCO2の約50%に当たる600トン以上のCO2を分離・回収できる」と説明する。この設備はバイオマスだけでなく、石炭や天然ガスを燃料とする大規模な火力発電所にも対応でき、20年代後半の実用化を目指している。

 既に小型設備の実用化は進んでおり、国内では佐賀市清掃工場などに納入実績がある。世界でカーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)の動きが加速しており、岩浅氏は「昨年11月から今年4月まで電力会社や化学メーカーなど60社以上から引き合いがあった」と明かす。今後は海外での受注も狙う。中長期的には「国内外の発電所向けに大型設備の受注も獲得したい」(同)と意気込む。

 ただ、分離・回収設備の普及には課題もある。現状、CO2の回収・貯留は、企業にとってコストが膨らむ要因にしかならないからだ。岩浅氏は「炭素税や排出量取引などカーボンプライシングが立ち上がらないと広がらない」とみている。

 回収したCO2の処理も問題だ。国内では北海道苫小牧市でCO2の貯留の実証実験が行われているが、既にCCSを実用化している欧米や中国に比べ“周回遅れ”の状況だ。

 日本でCCSが進まない背景には、CO2を貯留する適地が少ないことも背景にある。このため、豪州や中東の産油国に貯留することも計画されているが、CO2の分離・回収設備の普及にはCO2貯留を推進する環境整備が不可欠だ。

 東芝はCO2を資源化する技術開発にも力を入れている。再生可能エネルギーによる電力を使い、発電所やプラントから排出されるCO2を一酸化炭素(CO)に変換。そのCOをさらに化学合成することで、航空機のジェット燃料やエタノールにする取り組みだ。

 今年3月にはCO2をCOに変換する処理速度を約60倍向上する装置を開発、世界最高を記録した。COへの変換を行う電解セルを独自技術で積層化し、処理量を高めた。封筒サイズの設置面積で、年間最大1トンの処理量を達成した。

 東芝研究開発センター上席研究員の北川良太氏は「さらに装置を小型化し、3月時点の約70倍の処理速度を実現したい」としており、20年代後半の実用化を目指す。

 再エネ開発も注力

 東芝は再生可能エネルギーの開発にも定評がある。太陽光発電はメガソーラー設置シェア国内首位で、水力発電に関しても可変速揚水発電所で世界シェア首位を誇る。地熱発電の発電タービンも世界トップレベルだ。

 5月には米ゼネラル・エレクトリック(GE)と国内の洋上風力発電の生産で提携。北海道や東北の洋上風力発電プロジェクトの受注を目指している。東芝は再エネ関連事業の売上高を19年度の1900億円から25年度に3500億円、30年度に6500億円に引き上げる計画だ。このため、22年度までに脱炭素関連分野に1600億円を投資することを決めている。

 綱川智社長兼CEO(最高経営責任者)は「日本は今後10年間で再エネ関連で50兆~80兆円規模の投資が必要になる」との見方を示し、大きな成長のチャンスと捉えている。10月に公表する22~24年度の新中期経営計画では、グループが持つ技術や顧客基盤を成長につなげるため、カーボンニュートラルを中核に据えた事業再編も視野に入れている。(黄金崎元)

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