メーカー

「5年で販売数6倍に」なぜキリンビバレッジは“通販限定麦茶”のボトルを16種類もつくったのか (1/2ページ)

 2016年に発売してから、通販限定ながら販売を伸ばしているキリンビバレッジの「moogy」。社長の声かけで始まった前例のない取り組みに手を挙げたのは3人の女性でした。パッケージデザインにこだわり抜き、自社で展開できる最大の数である16種類のデザインをつくった理由とは--。

 ■社長から直々の号令

 突然ですが、皆さんは日常業務に忙殺されるなか、社長から直々に「まったく前例がない取り組みに、挑戦したい人は?」と聞かれて、「はい!」と手を挙げるでしょうか?

 大半は手を挙げないか、少なくともいったん躊躇するだろうと思います。とくにゴールまでの期間がわずかしかないとなれば、なおさらでしょう。

 与えられたミッションは、その年の秋に開催されるイベント(「TOKYO DESIGN WEEK 2015」)に出展する、オリジナル商品をゼロから開発すること。社長が声かけした時点で、すでにゴールまでは1年弱しかありませんでした。

 出展コーナー(ブース)を運営するのは、個人向け日用品通販サイト「LOHACO」。イベントで好評を得た商品は後日、実際に商品化されて同通販サイトで販売(1年以上は独占販売)される可能性があった。つまり、成功すればしたで、その後の業務がさらに忙しくなることは目に見えていたのです。

 ■手を挙げたのは3人の女性だった

 それでもキリンビバレッジには、迷わず「やりたい」と手を挙げた3人の女性がいました。いずれも入社5~10数年目のデザイン担当者。ちょうどLOHACOのメインターゲットと同世代の彼女らが1年弱で生み出した飲料が、「生姜とハーブのぬくもり麦茶 moogy(以下、ムーギー)」です。

 まるでテキスタイル(布地)のようなデザインがユーザーを魅了し、2020年の販売数量は、発売開始の16年との比較で約6倍にまで伸長しました。

 ムーギーが初めて一般にお目見えしたのは、先のLOHACOが出展したイベントの開催時。そのとき、LOHACOが掲げたコンセプトが「ユーザーの日常生活(暮らし)になじむデザイン」で、手を挙げた3人は、一様に「面白そう!」と共感したといいます。

 「というのも、一般に弊社のような飲料メーカーのデザイナーは、ふだん『いかに多くのお客さまに支持していただけるか』を求められるため、なかなかこうした機会はないだろうと感じたからです」と話すのは、キリンビバレッジ・マーケティング部デザイン担当の寺島愛子さん。

 ■消費者は2、3秒で買うかどうかを決める

 寺島さんが言うとおり、現代の消費者は「コンビニで、商品棚の前に立ってから2、3秒でどの商品を買うかを(直感的に)決める」とも言われ、多くの場合は「分かりやすさ」が求められる。パッケージについても、単にオシャレなだけでは難しく、「ネーミングからすぐに味や機能が想像できる」や「透明なペットボトルで、中身の飲料が見えている」などが重視されます。

 一方、LOHACOが掲げた「暮らしになじむ」デザインがもし実現すれば、「飲料をまるでお気に入りの服を選ぶように手に取ってもらい、『このデザイン(の飲料)に触れると気分がアガる!』などと喜んでもらえるのではないか、と思いました」と寺島さん。

 また、コンビニやスーパーの店頭販売と違うのは、ネット通販ではユーザーが「中味(成分ほか)」について、事前にじっくり説明を読んだうえで納得して買ってくれること。

 ゆえに購入段階、あるいは買ったあとでカバンに入れて持ち歩いたり、デスクに置いたりしたときに、思わずワクワクするような“デザイン性”を大切にしたい、そんな思いから、「店頭での2、3秒に捉われず、自由に発想しよう!」と決意したそうです。

 ■あえて選んだ苦難の道

 もっとも「自由なデザイン」の発想だけにとどまれば、まだ楽だったのでしょうが……、寺島さんたちはあえて、驚きの挑戦に乗り出しました。

 それが、商品パッケージのデザインを1つに絞らないこと。そして、デザインをあえて彼女たち自身が「手描き」することです。

 「当初から、好きな服を選ぶようにボトルを選んでほしいとの思いがあった。社内で確認したところ、製造できる最大のデザイン数は、16種類でした。『だったら16パターン、すべて自分たちでデザインしよう』『手しごとのぬくもりが感じられる、手描きがいいね』となったのです」(寺島さん)

 この発想が功を奏し、結果的にムーギーは「グッドデザイン賞2016」をはじめさまざまなデザイン賞を受賞。イベントの翌年2月からは、ネット通販での販売も始まり、その後はAmazonや楽天などでも売られるようになったのですが……、初回発売のパッケージデザイン(16種類)が決まるまで、寺島さんたちはなんと100点近くの手描きデザインを描き続けたそう。打合せの部屋の机や床に、並べきれないほどだったといいます。

Recommend

Ranking

アクセスランキング

Biz Plus