金融

供給網でも対中牽制、英国のTPP加入交渉は経済安全保障の布石

 環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)に参加する11カ国は6月2日、閣僚級会合「TPP委員会」をオンライン形式で開き、2月に加盟を申請した英国の加入について交渉を始めることで合意した。加入が決まれば、発足メンバー以外で初の参加国となる。TPPへの英国加入の動きは、参加国増加による経済圏の拡大にとどまらない。インド太平洋地域での、自由で開かれたルールに基づくサプライチェーン(供給網)の構築強化につながる。

 委員会はTPPの運営などに関する最高意思決定機関で、今年は日本が議長国を務める。日本政府関係者によると、参加11カ国の全てが英国との交渉入りに賛成した。

 これを受け、英国との交渉のための作業部会が設置された。貿易・投資ルールや関税に関して英国と協議する作業は、数カ月以内に始まる見通し。最終的な加入の可否判断は、来年以降になりそうだ。

 英国の加入が認められれば、TPPが世界の国内総生産(GDP)に占める比率は13%から16%に高まるが、その意義はこの数字をはるかに上回る。

 欧州連合(EU)から昨年末に完全離脱した英政府は、外交や安全保障政策で、インド太平洋地域でのプレゼンス(存在感)を高める方針を打ち出してきた。英海軍の最新鋭空母「クイーン・エリザベス」を核とする空母打撃群は今年、インド洋や南シナ海、太平洋を航行し、日本の海上自衛隊などと合同演習を行う。覇権的な海洋進出を強める中国を牽制する狙いがあるとみられる。

 英政府の動きは、TPP参加という通商面でも共通する。英国経済に詳しい第一生命経済研究所の田中理主席エコノミストは、空母のインド太平洋地域派遣について「対中包囲網への参加をアピールし、TPP参加の推進力にする狙いもあるのではないか」と見る。

 加えて、英国がTPPに加入し欧州とアジアを結ぶ結節点の役割を担うことになれば、他のEU各国も刺激を受ける。さらに、足元では参加に消極的な米国は英国と近く、米国再加盟の可能性も高まる。

 もっとも、英国の加入承認には、協定発効済みの全参加国の賛同が必要だ。TPP加入を「前向きに検討する」(李克強首相)と表明している中国の影響力を大きく受けている参加国もあり、協議の難航も予想される。

 議長を務めた西村康稔経済再生担当相は会議終了後の記者会見で、「国益にかなった最善の結果を得られるよう取り組む」と語った。参加国をまとめ、英国加入を実現させる意気込みが求められる。(那須慎一)

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