エネルギー経済社会研究所代表取締役・松尾豪さん(35)
--国内外の電力市場制度を調査している。日本の2030年温室効果ガス削減目標であるNDC46%減表明による電力業界への影響をどうみるか
「東日本大震災以後、大手電力各社は原子力発電所停止などに伴い財務状況が悪化している。また電力自由化の影響で収益力の低下が著しい。自由化に伴い新たに参入した新電力も収益力に乏しく、技術開発などへの投資に至っていないケースが多く見られる。政府は電力業界が脱炭素に向けた投資を促進する制度策定・環境づくりを行うことが必要になると考えられる」
--次期エネルギー基本計画の策定が近づくが、電力の視点ではどのような方向に向かうべきか
「日本は海に囲まれた島国であり、常にエネルギー安全保障の課題を抱えている。世界的な脱炭素の潮流の中で非効率な石炭火力発電所は市場から退出し、ますます液化天然ガス(LNG)火力発電所に依存することになる。今後は、原子力発電所の再稼働により、低炭素化実現やLNG依存度の低減を考えていく必要がある」
--今夏以降も全国的な電力需給の逼迫(ひっぱく)が予想されているが、電力業界全般の最近の流れをどうみるか
「特に電力自由化により、日本の電力システムは効率化を目指し、実際に効率が悪く、燃料価格の高い石油火力発電所・旧式LNG火力発電所の廃止につながってきた。一方で日本の電力システムは『供給の余裕』を失いつつあり、供給力確保が課題といえる」
--今冬の電力需給逼迫時に新電力各社が大幅な値上げなど価格転嫁せざるを得ない流れになった。課題は
「再生可能エネルギー大量導入時代における電力小売事業者の位置づけが不透明な点にある。今後、電気小売事業者各社は、市場価格の高騰リスクをにらみながら、適切なリスクヘッジを行っていく必要がある」
◇
【プロフィル】松尾豪
まつお・ごう 日大法学部政治経済学科卒。在学中の会社起業を経て、2012年10月、新電力のイーレックスに入社。アビームコンサルティング、ディー・エヌ・エーでの電力事業開発や市場調査担当を経て、21年3月から現職。千葉県出身。