21世紀を拓く 知の創造者たち

タニタ 「SR-903」

 ワクチン接種向け需要に対応「SR-903」

 ■見えない皮下脂肪厚を約5秒で計測

 タニタが6月1日に発売した皮下脂肪厚計「SR-903」は、皮膚と筋肉の間の皮下脂肪の厚さを約5秒で簡単に計測できる。新型コロナウイルス感染症のワクチン接種にインスリン用注射器の使用も検討されており、皮下脂肪厚を簡単にはかれる計測機器が求められていることから、急遽発売に踏み切った。開発に携わった国際商品開発課の3人に商品の特徴や開発の舞台裏を聞いた。

 ■酒井良雄さん 技術力で短期開発

 ▽さかい・よしお 国際商品開発課課長

 ■市原聖也さん 使いやすさを追求

 ▽いちはら・せいや 国際商品開発課

 ■伊藤史朗さん アルコールに対応

 ▽いとう・ふみお 国際商品開発課

 --皮下脂肪厚計の開発の経緯を教えてください

 酒井 タニタは2014年、電気抵抗値(インピーダンス)を活用し、からだの特定の部分の皮下脂肪の厚さを計測する機器「SR-803」を開発しました。脂肪は電気が流れにくく、筋肉は流れやすいという特性を利用し、からだに微弱な電気を流し、その電気抵抗値をもとに、皮下脂肪の厚さを推定する仕組みです。手軽に計測できる機器ですが、独自のアルゴリズムにより、超音波検査(エコー)と高い相関を持つなどタニタの技術が詰まっています。主に女性向けに、太ももや二の腕の皮下脂肪の厚さをはかるニーズに対応し、その後、腹筋を割りたい人向けに腹部の皮下脂肪厚をはかる派生モデル「SR-901」も発売しました。新型コロナのワクチン接種にインスリン用注射器を使用することで接種回数が増やせると医療機関が公表したことが報道されました。これをスムーズに実施するために、タニタの皮下脂肪厚計が使えることが示唆され、新製品「903」の商品化に踏み切ったのです。新型コロナへの対応という社会要請に応えるため、「使い勝手の良い商品をリーズナブルな価格で、一刻も早く提供する」という難しい課題に、総力を挙げて取り組みました。

 --既存商品との違いや開発の苦労について教えてください

 市原 既存商品である「SR-901」は、腹部の皮下脂肪厚計測を主眼にした商品で、皮下脂肪厚の大小を判定する機能やアニメーション表示機能があります。今回903を開発するにあたり、「使い勝手の良い商品」に仕立てる必要がありました。そこで、これらの判定機能やアニメーション表示機能は削除し、皮下脂肪厚の数値のみを表示するシンプルな表示画面に変更しました。また、901では判定機能のために性別を設定する必要があり、その選択画面が設けられていましたが、903ではこれも削除し、電源ONから計測開始までの時間をできるだけ短くしました。ここで苦労したのは、不要になる性別設定ボタンをどうするかということです。「使い勝手の良い商品」を「一刻も早く低コストで」商品化するためには、901の金型を活用し、デザインの変更も最小限にしなければなりません。ボタンの数は変えずに、各ボタンにどういう機能を持たせるのかに頭をひねりました。出来上がった試作品をタニタの従業員に使ってもらい、スムーズに操作できているかを観察しました。操作途中で表情を曇らせた場合は、その部分のボタン割り当てや操作方法を改良するなどの試行錯誤を繰り返しました。結果的に出来上がった計測フローは非常にシンプルです。(1)本体裏面の電極または計測する部位を水で濡らす(2)「ON」ボタンを押す(3)「START」ボタンを押して計測する部位に電極を当てる-の3ステップで計測できます。

 --医療機関でも使われますが、それによる開発の難しさはありましたか

 伊藤 これまでの皮下脂肪厚計は、背面にある電極を水で濡らすことで、電気を流しやすくしています。903を医療機関で活用していただく場合、一回使用するごとにアルコール消毒されますが、この流れで水の代わりにアルコールで電極を濡らすことも想定しなければなりません。アルコールを使っても、しっかり計測できることを検証するための試験を行いました。実際に医療機関にヒアリングし、消毒に使われる2種類のアルコールを用意しました。水と2種類の消毒液、水分のないドライ環境の4ケースで試験を行いました。その結果、水であっても、アルコール消毒液であっても、同様に計測できることが確認できました。試験の際に苦労したのは、押し当てる強さが違うと、皮下脂肪厚の数値の結果が違ってしまうので、強さを一定にしなければならないことです。試験では厳格な計測が求められるので、国立健康・栄養研究所などと共同で作成した肥満研究の学術論文「生体電気インピーダンス法による皮下脂肪厚の推定」で規定している強さを再現するために、圧力測定器を用いながら、一人ひとりの計測を、ていねいに行いました。

 --開発を通じて得た教訓は

 酒井 ヘルスケア向けに開発した商品が、医療現場でも役に立つということは、開発する側にとっては思いもよらないことでした。新しい商品を開発する際のアイデアや発想を生み出すための貴重な経験になりました。

 市原 903開発の話が持ち上がった時「簡単そうだ」と思いましたが、実際に取り組んでみると、多くの困難がありました。画面表示ひとつ決めるにも、さまざまなプロセスや合意が必要で、いろんな人の意見や感想を聞かなければなりません。開発期間が短い中で、やり遂げられたことは、大きな自信になりました。

 伊藤 商品は多くの人に使ってもらうことで、さまざまな感想が集まります。ユーザーからあがった率直な意見や新しいニーズをくみ取ることで、さらに良い商品が開発できるという好循環が生まれることを学ぶことができました。

 --コロナ禍で奮闘する医療従事者の期待も大きい

 酒井 タニタは医療従事者がワクチン接種の効率化に使用できると判断した場合に、安価に導入できる皮下脂肪厚計を選択肢の一つとして提供したいと考え、今回の商品化を決定しました。既存商品をベースに開発することで、短期間の商品化とリーズナブルな価格での提供を実現でき、責任を果たせてほっとしています。医療機器には該当しないので、使用にあたっては、医療従事者・関係者の判断によります。必要なデータや資料については、要請に応じて提供していく考えです。

 ■皮下脂肪厚計「SR-903」

 タニタの体組成計と同様に、からだに微弱な電気を流し、その電気抵抗値(インピーダンス)をもとに、皮膚と筋肉の間の皮下脂肪の厚さを計測する。超音波検査(エコー)装置と高い相関を持つ精度の高さとシンプルな操作で誰でも簡単に計測できるのが特徴。計測時間は約5秒。計測範囲は0.3センチから5.0センチで、0.1センチ単位で皮下脂肪の厚さを計測する。大きさは幅44ミリ、高さ26ミリ、奥行き138ミリで重さは約91グラム(電池を含む)。価格は9900円。タニタオンラインショップ専売。

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