コロナ直言

(8)判断と責任、国に委ねるな 和歌山県知事・仁坂吉伸

 《新型コロナウイルスのワクチン接種が広がっている。中でも和歌山県は、65歳以上の高齢者向け接種率が全国トップレベルとして注目された》

 コロナ禍の出口戦略はワクチンしかない。和歌山の状況は県と市町村が連携し、対応してきた結果だ。

 接種の実務は市町村が担うので、政府のワクチン調達見通しが示された1月中旬ごろから、全市町村と県で意見交換を続けてきた。そして、隣接する町同士は同じ会場で接種できるのか、人口の少ない村は高齢者以外にも打っていいか、などを国に掛け合ってきた。市などは医療機関へのお願いも一生懸命やってきた。「お役所仕事」で待っていても、接種率は上がらない。

 《同県はコロナ対応で早い段階から、濃厚接触者の徹底的なPCR検査▽保健所管内を超えた広域連携▽全県的な入院調整▽患者は原則全員入院-といった取り組みを進め、「和歌山モデル」と呼ばれた》

 コロナ対応では、国は法律を作って全体の秩序をみている。これに対し具体的措置の主体は都道府県だ。ところが知事会などでは、国に「基準を示せ」と求めるなど、判断を国に委ねるような議論がよく出てくる。国に責任を押し付けたい気持ちがあるのかもしれない。自分の政治的ポジションを守ろうと考えるのかもしれない。だが、それは望ましいことではない。知事が自分の判断で結論を出し、責任を取ればいい。

 国も知事に裁量権を持たせるべきだ。新型コロナウイルス特別措置法に基づく緊急事態宣言や蔓延防止等重点措置では、知事が具体的な措置を執行することなっている。だが実際は、取るべき手段は国の基本的対処方針に書かれてしまっている。方針の範囲外のことをしようと思うと別途、国との協議が必要になる。国は大枠や最低限の範囲を示し、知事が実情に応じて対策を上乗せできるような運用が求められる。

 一方、最近は国や国の専門家会議は「人流の抑制」しか議論していないようにみえる。保健所の運用はこう、病床はこのぐらい必要-など、科学的、実践的立場から自治体へアドバイスしていくべきだ。それをせず自治体で医療逼迫が起こるのは、政府の責任が非常に重いんじゃないか。

 国と自治体はそれぞれ果たすべき役割がある。国は全体の秩序の構築と最適化に努め、自治体は自身の権限の下で具体的対応を指揮・命令する-。コロナ対応でお互いが担うべき役割を今一度、自覚しなければならない。(聞き手・前川康二)

 コロナ対応で前線に立つ自治体は、ときに国に先んじて具体策を講じた。何を考え、どう動いてきたのか、首長に尋ねた。

 【プロフィル】にさか・よしのぶ 東京大学経済学部卒。昭和49年に旧通商産業省(現経済産業省)に入り、大臣官房審議官(通商政策局担当)や製造産業局次長を歴任。ブルネイ国大使や社団法人日本貿易会専務理事を経て、平成18年の和歌山県知事選で初当選。現在4期目。

Recommend

Ranking

アクセスランキング

Biz Plus