大手保険会社に社員向け研修体系を全面刷新する動きが広がっている。新型コロナウイルス禍でテレワークが定着し、研修も対面・集合型が制約されてオンライン方式に大幅移行したのが見直すきっかけとなった。従来の年次、役職別の画一的な研修から脱し、参加しやすいというオンライン方式の利点を踏まえ、自分でプログラムを選ぶバーチャルの「研修カフェテリア」や「企業内大学」を設置するなど、社員が自発的に専門知識を身に付けキャリア形成につなげる方向に切り替えた。
任意参加型を拡充
東京海上日動火災保険は4月、新たに全社員を対象に約40のコンテンツを備えた研修プログラム「学びのカフェテリア」の運用を始めた。テレワークが常態化したのを機に、全体の87%をオンライン化。参加必須の研修を半分以上減らし、「社員の発意に基づく自己成長を促す」任意参加型を拡充した。より専門性を高めたい社員には、ビジネス基礎力やキャリア開発など6領域のコースを設けた。
また、OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング=職場内訓練)では、新たな取り組みとして短時間で学べる「マイクロラーニング」や「オンライン研鑽(けんさん)会」などを導入。これらを組み合わせ、テーマに応じて年次や役職、場所など従来の形にとらわれない学びの場を提供するパッケージプログラムを取り入れた。
明治安田生命保険は6月、昨年6月に立ち上げた社内研修コンテンツを集約した企業内大学「MYユニバーシティ」を進化させた。全総合職が、個人所有のパソコンやスマートフォンで「いつでも、どこでも、誰でも」受講できる「オープンスクール」と、将来の経営人材育成などを目指し選抜者だけが受講可能な「セレクティブスクール」の2本立てに再構築した。経営人材と専門人材の育成を、同時並行で行う複線型を目指す。
オープンスクールは企業内大学創設時の会計・税務、資産運用、ITなどの「専門学部」に加え、新たに「ビジネス総合学部」を創設し、15日に運営を開始した。専門学部が専門人材の裾野拡大を狙い受講希望者に門戸を広げたのに対し、ビジネス総合学部は全職員が世の中のトレンドやビジネススキルを身に付ける学びの場とし、各講座は10分程度で通勤時でも気軽に受講できる。専門学部は今年度に「DX(デジタルトランスフォーメーション)学部」を新設し、計11学部に増やした。
企業内大学を開設
損害保険ジャパンも昨年10月、完全オンライン方式の企業内大学「損保ジャパン大学」を開設した。関連部署が展開してきた人材育成コンテンツを整理・一元化し、全社員対象の学びのプラットフォーム(基盤)に位置付けた。また、通常業務で習得しにくい専門性の高い分野を学ぶ場として少人数のゼミナール形式によるデジタル、グローバルなど5学部を設けスタートし、今年度は「マーケティング」「コマーシャルビジネス」を追加し、計7学部に増やした。
希望者が参加できるオンラインセミナー「SOMPO LIVE」は3月までに115講座を開催し、今年度は月20~30講座に増やす。
保険会社に限らず企業の業務内容は技術革新などを背景に高度化、複雑化し、より専門的な知識を備えた人材が求められる。社員も将来のキャリアデザインを描く上でスキルアップや仕事へのモチベーション(動機付け)を高める意識が高まっており、参加しやすく、自己成長を後押しするデジタル研修の動きが今後も広がりそうだ。(鈴木伸男)