若手の教育に注力
--安定供給も強みだ
「半導体市場の成長に備え、生産能力の増強を継続的に実施してきた。さらに約70億円を投じて千葉工場第4感光材工場(千葉県東庄町)を20年10月に竣工し本格稼働した。最先端の半導体微細化技術『EUV(極紫外線)』に対応する感光材を生産する拠点だ。感光材のほか、高純度溶剤も先端半導体向けに安定供給する計画を進めている。顧客が求める品質レベルを大量供給できるためで、評価も高い。このように常に大型プロジェクトを3件ほど検討している」
--課題は
「強みをさらに磨く。現在のTGC300期間中も、半導体の微細化・高機能化に応えられる高性能な機能性材料を供給するため、蓄積してきた高純度合成力、精製技術に一層磨きをかけてきた。今後も顧客品質を満たす安定供給体制を強化し、人・組織・事業の成長に向けたプランニングに取り組む。われわれが目指すのは顧客課題、技術課題を一つ一つ真摯(しんし)にとらえ、超高品質と生産性を両立できる世界ナンバーワンのダントツ企業になることだ。実現しないと半導体需要増というチャンスをとらえる戦略も『絵に描いた餅』に終わる。実現に注力するしかない」
--人材育成については
「生産性向上に向けた人材育成の強化は必須だ。最近は年間30人ほど新卒を採用している。800人規模の会社なので約5%に相当し、規模感としては大きい。若手教育に力を入れているからで、入社からの3年間で一通り学び終え、5年生、つまり20代後半で管理職候補を育てるというスピード感をもって取り組んでいる」
「当社は平均年齢が約35歳という若いハイテク企業だ。若手には活躍の場を与えたいので、成果を上げた人にはどんどん仕事を任せている。昔の世代は、頑張って給料が上がり昇進することでモチベーションを高めることができた。今の若い世代は社会的意義やコミュニケーション、周りからの感謝という視点も大切にしている。ただ社員に話を聞くと渇望感が強く、現状に満足していない。『もっとこうしてほしい』『こうしたい』と待遇だけでなく、品質安定や設備増強、新規ビジネスといったアイデアを持っている。全部聞き入れると投資額は300億円(22年3月期の設備投資額は35億円)に膨らんでしまう。足りないものばかりなので要望が多いのは分かる。投資配分が悩ましい」
先手打つこと大切に
--ベンチャー精神は今も受け継がれている
「ベンチャー企業は変化点が多いほどチャンスも多い。コロナ禍の今がまさにその機会なのでオーナー企業としての強みを生かす。数年先の事業の方向性さえ間違っていなければいい。重要なのは数少ない機会を逃さないこと。そのためには先手を打つことであり、先にリスクテークする。材料は一度採用されるとなかなか代替されず、次のチャンスにつながりやすい。だから2世代先を狙っている。そのためには業界のサプライチェーン(供給網)の変化をよく見るようにしている。大学や研究機関にも足を運び、技術トレンドなど情報収集に努めている」
--業績好調で投資家の評価も高い
「TGC300の前倒し達成など好業績を反映して、21年3月期の年間配当を20年3月期の20円から30円に増配する計画だ。ただ株主還元は安定配当を基本とする方針は変わらず、利益水準や今後の成長性、税務バランスなどを総合的に判断して決める。半導体市場の成長性から機関投資家から買いが入り、株価も上昇している。グローバルニッチ企業なので株式市場で人気があるうちに、当社のファンづくりの一環として個人投資家に訴求し認知度向上に取り組みたい。発信を増やし、これからのDXイノベーションを支える高品質・安定供給の企業だと分かってもらえるように社員や工場などを積極的に露出し、東洋合成工業のイメージづくり、見える化に力を入れる」
【プロフィル】木村有仁
きむら・ゆうじん 東京理科大機械工学科卒。2001年東大大学院新領域創成科学研究科環境学専攻修士課程修了。同年NEC入社。03年東洋合成工業入社。06年米サンダーバードグローバル経営大学院修了、07年取締役、常務を経て12年6月から現職。45歳。千葉県出身。