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経理職が会社から消える? 進むデータ化、インボイスが拍車

 新型コロナウイルスの感染拡大を機に企業の経理担当者の減少に拍車がかかり、近い将来にはいなくなる-。こんな時代の到来が現実味を帯びてきた。外出時の感染を避けるテレワークの普及で経理作業の多くがデジタル技術に取って代わられるというのが主因とされるが、日本ならではの特有の事情がその交代を加速度的に早めるというのだ。

 ITによる代行普及

 企業の経理を不要にさせる日本特有の事情は大きく分けて3つある。

 そのひとつが、従来、人の手でしか行えなかった経理業務を、ITや人工知能(AI)を活用して代行するサービスの台頭にある。テレワークの普及を政府が促したことも後押しし、こうしたサービスを利用する企業は急速に増えている。

 「2020年3月に経理代行サービスを開始し、今年6月までに約700社のサービス利用があった。2年後には1万社超の利用を見込んでいる」。こう話すのはITベンチャー「ディープワーク」の横井朗代表取締役だ。

 同社が提供する「インボックス」と呼ばれるサービスは、取引先から届くさまざまな形式の請求書をデータ化し、企業ごとに経理の支払い・計上処理を自動化するというもの。テレワークの大きな阻害要因とされる「紙の請求書」も、対応のスキャナーでスキャンしてデータ化。AIだけでなく人による確認作業も加えることで、どんな請求書でも99.9%以上のデータ化精度を保証し、「請求書処理にかかるコストと時間を8割程度削減できる」(横井氏)という。

 請求書のデータ化は官民で推し進めており、今後はIT企業や会計ソフトメーカーなどの参入が相次ぐのは間違いない。さらに経理業務の効率化は企業の生産性向上も促し、大きな経済効果を生むとも期待される。関西大学の宮本勝浩名誉教授は、請求書のデータ化の普及で約1兆1424億2182万円の経済効果があると試算する。

 そして経理担当を必要としない状況を生み出す日本特有の2つ目の事象は、商品ごとの税率や税額を請求書に記す「インボイス(税額票)」制度だ。

 23年10月から始まる同制度は、19年10月に消費税率を8%から10%に引き上げる際、食料品など生活必需品の消費税率を据え置く軽減税率が適用されたことが導入のきっかけだ。企業間の商品の取引段階で2種類の税率が存在するため、取引の透明性や正確な納税額の把握を目的に導入されることになった。

 ただ、この制度に事業者が対応するには、経理作業に新たな負担が発生する。税務署への登録とともに、事業者ごとに割り当てられた登録番号を請求書に記入せねばならない。請求書のフォーマット変更など作業の煩雑化は避けられず、経理事務の手間は増える。事業者の登録申請が今年10月から始まることもあり、経理業務の見直しがここにきて急務となっているのだ。

 こうした経理業務の変更は、規模の小さい中小・零細企業ほど負担が大きい。

 そこで、請求書処理の自動化の普及でインボイス制度による事業者の業務負担を軽減するため、会計ソフト会社などが昨年、「電子インボイス推進協議会」を発足させた。企業同士が異なる会計ソフトを利用していてもデータを簡単にやりとりできるよう、請求システムの国際規格を導入することを決定。紙の請求書削減に向けてデジタル庁も協議会との協力を表明しており、経理業務の自動化に向けた環境整備は着実に進められている。

 さらに、コロナ対策の遅れが招く国内景気の低迷も気がかりだ。ワクチン接種が進み景気回復が顕著な米国や中国に比べ、接種率が1ケタ台に沈む日本の景気復調の足取りは鈍い。今年1~3月期の実質国内総生産(GDP)の改定値は前期比年率3.9%減。4~6月期も2四半期連続のマイナスが懸念される。

 緊急事態宣言に伴う時短営業や休業要請に応じた事業者に対する自治体の協力金支払いの遅れは、飲食店などの経営悪化や倒産に拍車をかけている。人件費など固定費を削減する企業の動きが急速に広がった。

 東京商工リサーチが4日に発表した今年の上場企業による早期・希望退職の募集は、前年より3カ月程度早く1万人を突破。このペースだと通年で前年の1万8635人を超え、リーマン・ショック後の09年以来の高水準に達する勢いだ。大リストラの矛先が経理担当の従業員に向かう可能性も高いといえる。

 なくならない業務は

 とはいえ、人の介在を必要とする一部の経理業務は残るとみられる。請求書や領収書の整理入力といった単純作業はデジタル技術により自動化されるが、「逆に自動化できない専門知識や経験を必要とする業務は今後も人が担当する」(IT業関係者)という。

 例えば、資金収支の予測や事業計画の作成といった“付加価値を生む業務”がそれに当たるとのことだ。「経理の業務は、請求や記帳などの単純作業から経営を会計面からサポートする付加価値の高い仕事へと変化していく」(横井氏)との見方もある。経理業務は大きな転換期を迎えることは間違いなさそうだ。(西村利也)

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