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「遅い鳥」保護がエコ社会へ壁に!? インドで生息地の電線地中化命令が下る

 世界3位の温室効果ガス排出国であるインドは、2030年までに再生可能エネルギーによる発電量を約5倍の450ギガワット(4億5000万キロワット)とする目標を掲げている。だが、絶滅危惧種(EN)に指定されるインドオオノガン(GIB)保護に向けた取り組みが、この国のグリーン社会実現の行く手を阻んでいる。

 再エネ事業コスト増

 古フランス語で「遅い鳥」を意味するGIBは飛ぶ鳥の中で最も重いものの一つだ。高さ1メートル、翼開長が約2メートル、重さは約18キログラムで、大きさはクジャクの2倍以上ある。正面の視力が悪く、国境地帯の平原を飛行しながら地上を見渡す習性から、送電線との衝突・感電による死亡例が報告されている。

 生息地のインド西部の広大な荒れ地は長年、風力や太陽光による再エネプロジェクトにとって理想的な場所だった。だが、GIBの送電線衝突を回避するためにインドの最高裁判所は4月、生息地の送電線の地中化を命じる判決を下した。これにより推定3000億ルピー(約4470億円)の追加費用がかかる可能性があり、出力約20ギガワットの承認済みの再エネプロジェクトが脅かされかねないと企業側は危惧している。

 最高裁は「送電線との衝突による死亡率が急減しない限り、GIBの絶滅は確実」とするインド野生生物研究所(WII)の報告書に基づいて2人の裁判官の合議で審理し、判決を下した。人間の持続可能な開発と他の生物の権利を比較検討する必要性を認め、両者のバランスを取るよう努めたと説明した上で、「コスト要因に関係なく、ほぼ絶滅の危機にひんしている鳥を救うことの方が優先される」として、GIB保護がより重要だと判断。既存を含む全ての低圧線を地中化する必要があるとしたほか、高圧線の地中敷設の実現可能性を調べるために3人からなる委員会を設置した。

 今回のケースは「再エネ業界VS自然」の単純な衝突とは微妙に異なる。GIB保護に取り組むことで、一段と大きな環境に起因したリスクを抱えることになるのは間違いない。つまり、GIBが生息するような荒れ地にソーラーパネルや風力タービンを設置して気候目標達成を狙うインドの気候変動対策を後退させる可能性がある。

 シンガポールの政府系投資会社テマセク・ホールディングスが出資する開発業者でインド西部のパキスタン国境に近いジャイサルメールで出力780メガワット(78万キロワット)の太陽光発電プロジェクトを建設するオーツーパワー(O2パワー)のパラグ・シャルマ最高経営責任者(CEO)は、「太陽光発電を中心に業界全体が暗礁に乗り上げる可能性がある。国内で他に簡単に見つかる土地はないだろう」と危機感を募らせる。

 保護区は広がる恐れ

 GIBの生息地でプロジェクトを抱える企業は他にも、新興財閥アダニ・グループ傘下の再エネ大手のアダニ・グリーン・エナジー、再エネ発電大手リニュー・パワー、太陽光発電開発事業者のアクメ・ソーラー・ホールディングスなどがある。

 エネルギー会社によると、問題は最高裁がWII報告書の指示をはるかに超えた判断を下した点にあるという。WIIはGIBの大半が生息する地域の送電線を地中化するよう助言したが、最高裁は潜在的な生息地でもそうした行動を求めており、保護区が拡大し、企業のコスト負担は増大する。

 国内の太陽光発電・太陽熱発電関連企業の業界団体NSEFIのスブラマニヤム・プリパカCEOは「驚いた。最高裁への再審請求や、委員会に対する論証、あるいはその両方を行うなどあらゆる選択肢について協議している」と明かす。

 プリパカCEOによると、送電線の地中化でプロジェクトの費用と電力価格が20%近く膨らむ可能性があるほか、規制でプロジェクトに後れが生じるため、推定約3000億ルピーの追加支出分を金融機関から調達するのは厳しくなるかもしれない。「つまり、開発業者は自腹を切り、その後、回収のために数年間奔走する羽目になる」と警戒する。

 一方、ベンガルールを拠点とする環境問題専門のスレージャ・チャクラボルティ弁護士は、「GIBは絶滅の危機にひんしており、現在の生息地は非常に限られている。その生態系の保護は、他と同様にわれわれの気候目標の大切な一部であるはずだ。再エネ業界が最高裁の命令に従うのが難しければ、プロジェクトを他の場所に移転すべきだ」と強調している。(ブルームバーグ Rajesh Kumar Singh)

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