高論卓説

東京五輪開催の条件は「先に国民が日常生活を取り戻すこと」

 なぜ、毎日毎日、信じがたいようなアナウンスが、政府周辺から出されるのだろうか。緊急事態宣言が解除されてから、1週間もたたないうちに、再宣言の可能性や、新型コロナウイルスのワクチン接種において、職場や大学での接種を促進していたにもかかわらず、それも1カ月足らずで申請を停止。東京五輪の会場では、他のイベントの収容人数や飲食店における酒類提供のガイドラインを越えた対応を決めようとするなど、想像を絶する内容が発表されたかと思えば、それもすぐ翌日に撤回されたりする。その決断を行う組織委員会や政府の思考は、あまりにもずれている。結局、それもこれも、その「目的」があいまいだからだと、疑わざるを得ないのである。(細川珠生)

 2週間前まで、米マサチューセッツ州に滞在していたが、ワクチンの1回接種は、州内地域によっては90%を超えたところもあり、経済活動もニューノーマル(新常態)として全面再開となった。野球のメジャーリーグの観客が100%となり、国内旅行も増加。州の緊急事態宣言に続き、国家非常事態宣言が発令されてから1年3カ月の自粛生活から、ようやく日常を取り戻し始めた人々は、「やっと(自由になれる)」「やっと(終わった)」と言い、安堵(あんど)と明るさに満ちた表情が印象的であった。

 バイデン米大統領は、「7月4日の独立記念日に、ごく身近な人たちだけでも集まってお祝いする」ことを目指し、それまでに18歳以上の希望する人の7割が、最低でも1回は接種することを目標にしてきた。独立記念日というのは1つのめどであり、ワクチン接種を進める一番の目的は、経済の正常化であることは言うまでもない。

 接種を迅速化するためのさまざまな方法を取り入れ、日本人から見ると、多少「雑」に思えるが、とにかく広く、多くの人に打ってもらう。どんな立場であっても、国内にいる人には、どんどん接種を進め、経済を再開し、学校生活を始め、日常を取り戻す、その一心であった。当然、接種券などないし、接種の順番は一応あったが、それにのっとりながらも、いたるところで接種を行い、そのスピードたるや、見事なほどであった。多少雑でも、結果として国民のためになることは、全てとは言わないが、多くの米国人の共通認識にもなっていたように思う。

 五輪開催を控えた日本で、今の米国並みに接種が進んでいれば、厳しいガイドラインを順守することを条件に、開催への理解は進んだであろう。懸命に加速させてはいるものの、日本の現状のワクチン接種率の低さでは、国民が大きな不安を抱くのは当然である。そこへ、今回のように、職域接種に待ったをかける。あるいは、4度目の緊急事態宣言の発出をにおわせる。

 もちろん、国民を感染から守るためであると思うが、それ以上に五輪のためではないかと思ってしまうのは、冒頭述べたような、五輪に関するダブルスタンダードのような対応に、国民は大きな不信感を抱いているのである。

 私も一国民として、自国で開催される五輪での日本人選手の活躍は楽しみにしてきたことでもある。しかし、国民は、まだ日常生活を取り戻せていない。まず、国家として行うことは、国民が日常生活を取り戻せるような対策を実行することである。五輪の開催がそのために必要であるのなら、その説明をしっかりとしていただきたい。

【プロフィル】細川珠生 ほそかわ・たまお ジャーナリスト。聖心女子大卒。三井住友建設社外取締役。星槎大学非常勤講師。京都・かめおか観光PR大使。元東京都品川区教育委員会教育委員長。1児の母。父親は政治評論家の故細川隆一郎氏。

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