新疆ウイグル自治区の強制労働問題は日本企業にとって重大な経営リスクとなりつつある。新疆はファーストリテイリングなどのアパレル企業が使用する綿の世界的な産地であるほか、ハイテク素材や食用の農産物も多く生産されており、他業種の企業も強制労働への対応強化が求められている。多くは問題が発覚した場合に取引を停止する方針だが、欧米に比べて対応が甘いとも批判される。判断を誤れば国際的な信頼に傷がつきかねない状況だ。
「(監査の結果)人権侵害はないので、継続的に使用していく」
衣料品や生活雑貨を扱うチェーン店「無印良品」を展開する良品計画の松崎曉社長は、2日の決算記者会見で新疆綿の使用継続を明言した。外部に依頼して4月に実施した監査で「重大な人権侵害はなかった」という。同社は、強制労働が問題視され始めた後も一貫して使い続けるとしており、この日も姿勢を変えることはなかった。
同社を含めて、日本企業の多くは取引先や関係先の状況把握に努める一方、強制労働などの問題が発覚すればただちに取引を停止するとしている。ただ、衣料品は完成までに紡績や生地生産、縫製といった何段階もの工程を経るほか、生産委託先も多いために取引関係は複雑で、情報統制が厳しい中国で詳細な実態をつかむことは困難だ。
しかも新疆綿は中国産綿花の8割超を占めている。日本は衣料品生産の約7割を中国に依存しており、あるアパレル企業は「使わないという選択肢は考えにくい」と打ち明ける。
同様の問題に直面しているのはアパレル業界だけではない。新疆は太陽電池に使うシリコン部材で世界シェアの半分近くを占めるほか、トマトなどの農産物の生産も盛んだ。豪州のシンクタンク「豪戦略政策研究所」が昨年公表した報告書は、パナソニックなどの日本企業14社が強制労働に関与していると指摘した。
6月24日に株主総会を開いたパナソニックは株主との質疑応答の中で問題企業との取引を否定。総会後に社長から会長になった津賀一宏氏は「後ろめたいことはない」と言い切った。ただ、同社はこれまでこの問題について一切回答しておらず、説明責任を果たしていないとの批判も浴びる。
強制労働に関しては投資家からの視線も厳しい。問題を軽視すれば経営戦略にも影響が出かねない。(井田通人、加藤園子)