金融

「貧しい人ほどビットコインに夢を見みる」暗号資産で一発逆転を狙う小国の末路 (1/2ページ)

 経済発展のノイズでしかない暗号資産

 中米の小国エルサルバドルで6月8日、暗号資産であるビットコイン(BTC)が法定通貨として採用された。暗号資産の推進派はこうした動きを歓迎、新興国の経済発展にも貢献すると息巻いている。反して、暗号資産の慎重派はBTCを法定通貨に定めたことに対して懐疑的な見方を強めており、評価は文字通り二分化している。

 エルサルバドルの狙いは、暗号資産を起点に金融立国を目指し、経済を発展させることにあるようだ。同様の思惑を持つ国も徐々に出てきており、例えば東欧にあるウクライナはその端的なケースとなる。とはいえ、ウクライナの場合は独自の法定通貨であるフリヴニャを維持しているため、エルサルバドルほど過激ではないと言える。

 ここで一つの疑問がわく。エルサルバドルのような途上国の経済発展を考える時、BTCなどの暗号資産は果たして有用だろうか。伝統的な経済学に基づけば、暗号資産は経済発展のノイズでしかないという見解に行きつく。その理由は、通貨の安定が途上国の経済発展の前提条件であるにもかかわらず、暗号資産の利用はそれと真逆の意味を持つからだ。

 ではなぜ通貨の安定が必要なのか。一般的に途上国はモノ不足の経済、そのため国内のインフレ率が常に高い状態にある。しかしインフレ率が高ければ、経済は安定して成長できず、発展もしない。そこでインフレを鎮静化させるために、米ドルやユーロなど信用力が高い外国通貨と自国通貨との間の為替レートを安定させるのである。

 為替レートを安定化させるためには、保守的な財政・金融政策が必要となる。とはいえ政治的な圧力を前にすると、どのような国でも財政・金融政策は拡張型になりやすい。その結果、自国通貨の為替レートは下落を余儀なくされ、そうであれば、いっそ独自通貨を放棄して、米ドルなどの外国通貨を自国の法定通貨に採用してしまえばいい。

 乱高下を繰り返す暗号資産は物価のかく乱要因でしかない

 このように政府が独自通貨の発行を放棄し、米ドルなど信用力が高い外国通貨を唯一の法定通貨に採用する大胆な決断は「完全なドル化」と呼ばれる。この政策を採用した場合、政府と中銀は通貨発行益(シニョリッジ)を喪失、通貨政策と金融政策の裁量も放棄することになるが、言い換えれば政策運営に伴うコストを支払う必要もなくなる。

 エルサルバドルは2001年、この「完全なドル化」に踏み切った。その前年の2000年には、南米のエクアドルも同じ決断をしている。両国とも当時は高インフレに苛まれており、その解決策として「完全なドル化」という政策を採用したわけだ。結果的に両国のインフレはかなり安定し、通貨政策としての「完全なドル化」の有効性を見せつけた。

 エルサルバドルの場合、今年の9月からBTCが法定通貨として利用される。米ドルも引き続き法定通貨であるため、保守的な人々は米ドルでの取引を優先するだろう。BTCでの取引を拒否することは禁じられるようだが、そうした規制がどの程度の実効力を持つかは分からない。いずれにせよ、BTCがエルサルバドルでどの程度利用されるかは不透明だ。

 BTCの利用が限定的であれば、それほど問題はないかもしれない。しかし利用の機会が増えるほど、ボラタイル(価格の変動率が大きいこと)なBTCが物価安定を阻むノイズになると警戒される。今年1月1日の終値は1BTCが2万9346米ドルだったが、4月13日には6万3518米ドルまで急騰した。しかし6月23日には3万3703米ドルまで下落、安定とは無縁の世界だ。

 BTCが金融資産である以上、価格が上昇すれば資産効果が働くし、逆もまた然りとなる。しかしマクロ的には、資産効果が働くことで内需が刺激され、むしろインフレ圧力が高まる事態が警戒される。価格が下落して逆資産効果が生じた場合も、内需が抑制されなければ、輸入インフレを起点とするインフレがかえって加速すると懸念される。

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