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世界に対抗できる道 「3期連続世界トップ」富岳なくして、日本の未来はない (1/2ページ)

 米国経済の“ゲームチェンジ”が起きている

 主要先進国で、経済運営の基本的な考え方が修正され始めている。典型例が米国だ。伝統的に米国は市場原理に基づく経済運営を重視した。しかし、1989年の天安門事件後、徐々に中国の“国家資本主義体制”の強さが目立ち始めた。

 特に、リーマンショック後の米国では共和党保守派を中心に自由資本主義体制よりも、国家資本主義体制の方が強いのではないかという疑念、懸念が増えた。それがトランプ前政権の対中強硬策を支えた。バイデン政権はIT先端分野への補助金の給付などをより重視しているようだ。米国の経済運営の理念は“自由資本主義”から、必要に応じて政府介入を伴うものに修正されつつある。米国経済の“ゲームチェンジ”だ。

 わが国政府も特定企業による独占を禁じる発想を修正し、NTTを中心にかつての“電電ファミリー”の糾合を重視し始めた。その中で注目したいのが、ファミリーの一翼を担った富士通などが開発したスーパーコンピューターの“富岳”が、世界トップの座を守ったことだ。

 世界トップの情報通信技術などの有無は、わが国の経済全体の活力や国際世論での発言力を左右する。わが国政府はそうした認識をしっかりと持ち、企業がより積極的に最先端分野に生産要素を再配分する環境を整備しなければならない。それは“アフター・コロナ”を含め中長期的なわが国経済の実力に無視できない影響を与えるだろう。

 “レッセフェール”を覆した中国の急成長

 伝統的な経済学では、市場経済の意義は、限りある資源を有効に再配分し、より効率的に付加価値を生み出すことにあると考える。具体的には、市場には同じ情報を持つ無数の企業が存在する。個々の企業(事業者)は自らの利得を重視して競争する。

 その結果、あたかも神の見えざる手に導かれるように経済全体で効率的な生産要素(ヒト・モノ・カネ)の再配分が実現される。それが、“レッセフェール(自由放任)”の考え方だ。伝統的に米国では自由資本主義の考えが重視され、政府は基本的に、民間の競争に介入すべきではないとされてきた。

 しかし、実際の経済は理論通りではない。天安門事件以降、中国経済は大方の予想と異なり、民主化ではなく共産党政権の指揮によって工業化を進め、高い経済成長率を遂げた。リーマンショック後の中国は、国家資本主義体制をより引き締めて国営・国有企業などの事業運営を支援し、高い経済成長を維持した。

 中国政府は産業補助金や外国企業からの技術の強制移転によって先端分野への生産要素の再配分を強力に推進し、華為技術(ファーウェイ)などの急成長を支えたのである。

 危機感を強めた米国でゲームチェンジが起きている

 その状況に米国の保守派は徐々に危機感を強めた。特に、オバマ政権が中国と“新しい大国関係”を目指したことの影響は大きかった。それは、トランプ前政権の誕生を支えた一因だ。トランプ政権はファーウェイなどに制裁を発動した。それは、自由資本主義の考えだけでは国家資本主義体制に対抗することは難しく、必要に応じて市場に政府が介入することは必要との考えに基づいたものだ。

 さらに2021年6月に米上院は“米国イノベーション・競争法案”を可決した。法案が成立すれば、向こう5年間で総額2500億ドル(約27兆円)が量子技術開発や半導体生産の支援などに投じられる見込みだ。

 安全保障体制の強化と、経済運営の効率性向上の両方に欠かせない最先端の情報通信技術などを中心に、米国政府は必要に応じて市場に介入する考えをより強めているように見える。このように米国ではレッセフェールから修正資本主義へ、経済運営のゲームチェンジが進んでいる。

 NTTの「グループ企業統合」が意味するもの

 米国以外の国や地域でも、市場への政府介入を重視するケースが増えている。特に、安全保障を理由に、中国企業からの情報通信機器などの調達を切り替える国が増えている。2021年9月末以降、英国政府は5G通信インフラを対象に、自国の通信事業者がファーウェイの通信機器を導入することを禁じる。事業者の多様化のための補助金も支給される予定だ。

 また、英国は“ファイブアイズ(米、英、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの5カ国で機密情報を共有する枠組み)”の強化も重視している。

 その状況下、わが国の産業政策は大きな転換点を迎えた。その象徴が、NTTによるグループ企業の統合だ。さらに、NTTは次世代の通信技術開発を念頭にNECと資本業務提携を結んだ。NTTは富士通とも戦略的業務提携に合意し、“旧電電ファミリー”の技術力を結集することによって世界市場で戦える体力(資金力や研究開発体制)を整えようとしている。

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