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今後の大会の試金石 無観客の五輪、メディアは奮闘伝えているか

 長い歴史を持つ五輪が今回の東京大会と同じく、大きな曲がり角を迎えたのは、1984年のロサンゼルス大会だった。今も続く1業種1社のスポンサー制度や大会マスコットの商品化などの新たな施策を次々と打ち出し、商業五輪の先鞭をつけたとされるのが、大会組織委員会の委員長を務めたピーター・ユベロス氏である。後に米大リーグのコミッショナーを務め、赤字続きの球団経営を黒字化したことでも知られる。

 そのユベロス氏が残した言葉がある。「(今後の五輪は)スタジアムの規模よりも、中継カメラの台数を重視すべきだ」。新型コロナウイルスという未曾有の疫病により、ほぼ無観客となり、テレビ観戦が主体となった今大会は図らずも、ユベロス氏の「予言」が的中する結果となった。

 このエピソードを紹介してくれた追手門学院大学の上林功准教授(スポーツ文化学)は「東京五輪は今後の大会の試金石となり得る。さまざまな放映技術により、スポンサーが重きを置くにぎわいをどこまでなくすことが可能なのか、観客がいなくても済む環境を整えられるのかが試される」と強調する。

 あえて無観客を前向きに捉えれば、東京の取り組みが成功すると、ロサンゼルス大会以上の変化を五輪にもたらすことになるのではないか。肥大化し、経費も膨らみ続けたスポーツの祭典を開催できる場所は限られており、招致に手をあげる都市も少なくなっている。2024年のパリ、28年のロサンゼルス、そして32年のブリスベンと、いずれも無風で開催地となったのがなによりの証拠。東京がイスタンブールやマドリードと今大会の招致を争ったころの魅力は既に失われている。しかし、無観客でよければ、大規模なスタジアムやアリーナは必要ない。開催都市の選択肢が広がり、国際オリンピック委員会(IOC)が熱望する五輪のコンパクト化が一気に実現するのだ。

 一方で、応援を通して選手と観客が不可分の関係を築いているのも事実である。特に、21日に始まったソフトボールとサッカー女子は、五輪をきっかけに人気を高め、競技人口を増やしたい狙いがある。しかし、一方的な形で福島県営あづま球場や札幌ドームの無観客が決定。スタンドの観客に自らのプレーで競技の素晴らしさを伝えられなくなった悔しさは、いかばかりだろう。それでも、サッカー女子日本代表「なでしこジャパン」のエース、岩渕真奈(28)は「スポーツの価値が問われる大会。自分たちの立ち位置を(多くの人に)認めてもらえるように頑張らないといけない」と前を向く。

 彼女らのひたむきさや最後まであきらめない姿勢は、どうすればスタジアムで観戦する機会を失った人々に届くだろう。感染した大会関係者の数を日々俎上に載せて危機感をあおるのが、あるべき報道の姿ではないはずだ。試金石の無観客五輪では、われわれメディアの役割も問われている。(北川信行)

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