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「ばか正直に守ってきたのに」 タイで日本支える飲食店がコロナで危機

 【アジアの今】日本人が経営するそのレストランがひっそりとのれんを下ろしたのは、6月下旬の営業を終えた直後のことだった。この日夜、タイ政府は飲食店での店内飲食の禁止を決定し、一斉通達に踏み切った。新型コロナウイルス禍の経営難から月末限りで閉店を決めていたこの店も対象とされ、なじみ客との別れのあいさつもできぬまま前倒しで店を畳むほかはなかった。

 タイではこの2週間余りの間、新規コロナ感染者が1日あたり1万人前後で推移。今年4月初めまでは多くても3桁台に止まっていたのが嘘であるかのように爆発的に感染が広がっている。死者も増え、全陽性者に占める割合はこの3カ月で3倍にも急伸した。密を伴う飲食店やマッサージ店などは真っ先に感染対策の対象とされ、昨年3月末以降これまでに計3度、営業規制が行われている。中でも感染力の強い「デルタ株」が広がった今回は、一時は店内飲食が再開されたが、1カ月余りで逆戻り。客商売の店はすでに限界を迎えている。

 空前の「日本ブーム」が続くタイでは日本食に日本のアニメ・漫画が大人気だ。日本をテーマにしたイベントには多くのタイ人客が姿を見せ、コロナ前の2019年は過去最高の約133万人が訪日した。その日本の食や文化をタイで日常的に伝えてきたのが、日本から進出した飲食店だ。日本の料理やサービスを知ったタイ人客が本場を求めて日本を旅行する。競争の厳しい日本の観光業界では、タイからのインバウンド需要に生き残りをかけた事業者もいたほどだ。

 タイには約4000店もの日本食店がある。その多くは、個人や小規模経営の中小零細事業者だ。一旗揚げようという者、国内市場に限界を感じた者などさまざまだが、いずれも異国での商売に夢をみた経営者だ。新型コロナで営業規制が続く今、彼らは待ったなしの局面に立たされている。

 タイ人経営の店のように国からの補償は何もない。一方で、家賃や賃金などの固定費負担はそのままだ。安易な批判はできないが、軍や警察上層部とうまく掛け合い、禁止されている酒類の提供を密かに行っている店もあるらしい。「ばか正直に守ってきたのに」。冒頭のレストラン店主が最後に残した言葉だ。(在バンコクジャーナリスト・小堀晋一、写真も)

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