金融

白川総裁、昭和恐慌引き合いに「歯止め失う」 日銀議事録詳報

 日本銀行が7月30日公表した平成23年1~6月の金融政策決定会合議事録は、金融政策を通じた不況退治に慎重な白川方明(まさあき)総裁当時の空気感が色濃くにじみ出た。昭和恐慌の苦い記憶を引き合いに財政規律を守ろうとする姿勢は、金融緩和で物価が持続的に下落するデフレからの脱却を目指す政治の思惑と対立。深刻な円高不況の“戦犯”とも批判され、自公政権の下で異次元緩和へとつながっていく。

 「愚行、絶対に避けなければ」

 「破滅の道をたどることになるような愚行は、絶対に避けなければならない」

 亀崎英敏審議委員は大震災の翌月となる4月7日の決定会合で、当時政権与党だった旧民主党内で復興予算の財源をめぐり待望論が出ていた国債の直接引き受けを強い言葉で批判した。

 通貨を発行する日銀自身が市場を介さずに国債を直接買い入れれば、財源確保はたやすい。だが、「(引受額に)歯止めが利かなくなる」(白川氏)ことで政府の財政規律と通貨の信任が失われ、急激な物価上昇(ハイパーインフレ)を招きかねない“禁じ手”だ。

 1930年代に高橋是清蔵相が昭和恐慌からの脱却を目指して直接引き受けを断行したが、戦費拡大に伴い引受額は増大し、戦後の急激なインフレにつながった。当時の反省から財政法では原則禁止されている。

 急激な円高ドル安で政策変更

 ただ、震災時は欧州債務危機なども重なって経済の不透明感が強まり、安全資産とされる円が買われ円相場は3月中旬に一時1ドル=76円台前半と約16年ぶりに戦後最高値を更新。急激な円高ドル安は輸出企業の業績を悪化させ、日銀は8月4日の決定会合で資産買い入れ枠を5兆円増額するなど、4月に見送った追加緩和策の導入に迫られた。

 民主党政権は円高不況の泥沼を抜け出せないまま支持率を低下させ、24年12月の政権交代につながった。「デフレからの脱却」を掲げた安倍晋三政権が「三本の矢」の1つとして「大胆な金融政策」を挙げたのは保守的な白川日銀に対する不満のあらわれといえる。

 歯止め喪失…膨らむバブル

 後任の黒田東彦(はるひこ)総裁は就任翌月の25年4月に日銀が保有する長期国債の残高を日銀券(紙幣)の発行残高までに抑える「日銀券ルール」を停止。大量の国債を買い入れる「異次元の金融緩和」を導入し、急速な円安、株高を呼び込むことに成功した。

 ただ、当初2年間で終わるはずだった異次元緩和は黒田氏の就任10年目が迫る現在も続き、新型コロナウイルス禍では長期国債買い入れ枠の上限も撤廃した。日銀の総資産は令和3年3月期決算で714兆円と10年前の約5倍、保有国債は約6・9倍にまで増大。金融市場に大量の資金が流れ込み続けることで「バブル」が膨らんでおり、「歯止め」の喪失を懸念した白川氏の言葉が現実味を帯びる。(高久清史)

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