金融

特別買収目的会社「SPAC」 空箱上場の解禁、その期待とリスク (2/2ページ)

 日本市場で根付くか

 日本では平成20年、東京証券取引所がSPAC上場解禁の検討をしたが、投資家保護の課題解決策を見いだせず、見送った経緯がある。日本取引所グループ(JPX)の清田瞭最高経営責任者(CEO)は今年6月の会見で、SPACについて「投資家保護をどうするか、企業のデューデリ(適正評価)を誰ができるのかなど、マーケット秩序のリスクが大きい」と指摘するなど、慎重論は根強く残る。

 また、欧米に比べ個人投資家や創業自体の少ない日本では、SPACは普及しないとみる専門家も多い。大和総研の横山淳主任研究員は「スタートアップが上場しやすくなるとはいえ、それを維持するのは容易ではない」と強調。「上場だけが効率的な資金調達の手法とするのではなく、企業レベルに応じた資金調達の仕組みの整備が必要だ」と注文をつけている。

 解禁めぐり経産省VS.金融庁 火花

 政府内でSPAC解禁を主導したのは、当時の経済産業省の新原浩朗経済産業政策局長(現内閣官房成長戦略会議事務局長代理)とされる。日本でグーグルやアマゾン・コムなど「GAFA」と呼ばれる米巨大IT企業が生まれないのは、スタートアップやベンチャー企業を育成する環境整備が遅れているためだとするのが経産省の持論だ。安倍晋三前政権で高い調整力で重用された新原氏が、菅義偉(すが・よしひで)首相にSPACの必要性を訴え、成長戦略に解禁検討をねじ込んだ。

 鼻息の荒い経産省に対し、金融庁はSPAC解禁には否定的だ。既存の新規株式公開(IPO)の上場であっても、ガバナンスが守られていない企業が多発する現状を指摘。簡単な審査でやみくもな企業上場を招くSPACのリスクを主張し、経産省と真っ向から対立する構図だ。

 解禁に向けた議論は長期化も予想されるが、目まぐるしく変化する国際金融市場の中で、タイミングも含めた適切な政策判断の重要性は増している。(西村利也)

Recommend

Ranking

アクセスランキング

Biz Plus