消滅コメ先物市場(下)

コメ先物上場廃止決定で金融都市構想に暗雲 揺らぐ大阪の成長戦略

 「日本の先物市場は国内だけでは限界がある。海外からの投資をもっと呼び込んでいくべきだ」

 大阪府の「国際金融都市」構想実現に向け、今年3月、官民で立ち上げた「国際金融都市OSAKA推進委員会」の総会。大阪堂島商品取引所社長、中塚一宏は演説をぶった。

 規制緩和などで海外の資金や人材を呼び込み、金融を中核とした発展を目指す国際金融都市構想。政府が打ち出すと、大阪府も名乗りをあげた。東京や福岡もライバルとなるなか、大阪は先物などデリバティブ(金融派生商品)の充実で特徴を打ち出す。

 先物を扱う堂島もその拠点となりうるが、中塚の強気の演説とは裏腹に、看板だった国内唯一のコメ先物取引の本上場が不認可となり、拠点の「資格」が揺らぐ。

 「国際金融都市構想の推進には関係ない」。大阪府幹部は影響の打ち消しに躍起になる。タイミングの悪さがあったからだ。

 7月中旬、推進委は、先物取引などを柱とした金融都市構想の戦略素案を発表したばかりだった。

 加えて8月3日、堂島の事実上の筆頭株主、SBIホールディングスの社長で大阪の金融都市構想の仕掛け人でもある北尾吉孝が府庁を訪問。構想推進に向けた府との連携協定の席上、知事の吉村洋文から「国には本上場をぜひやってもらいたい」との発言を引き出し一体感を演出していた。

 その3日後のコメ先物上場廃止決定は、府にとっても出ばなをくじかれる誤算だったに違いない。

 堂島は足元にも火がつく。全取引の9割以上を占めるコメ先物の喪失は、痛手だ。今後、貴金属先物などの新商品を年2回のペースで上場させるともくろむが、収益を支える柱となるかは不透明だ。

 国際金融都市構想の柱となるデリバティブでは、大阪取引所(旧大阪証券取引所)が圧倒的だ。社長の岩永守幸は「デリバティブ市場は発展していく余地がある。もう1つの取引所が期待される」と堂島を持ち上げるが、7月のデリバティブ取引高2587万枚(枚は取引単位)に対し、堂島は7万枚余り。並び立つにはほど遠い。

 堂島が上場を目指す貴金属先物はすでに大阪取引所も扱っており、生き残りには大阪取引所との差別化が不可欠だ。

 堂島を支える側にも変化が出てきた。SBIは、三井住友フィナンシャルグループと来春にも株式売買ができる私設取引所「大阪デジタルエクスチェンジ」を大阪に開設する。三井住友ブランドへの信頼感から注目が高まっており、堂島は埋没しかねない。

 江戸時代、世界に先駆けて先物取引を始めたとされる「堂島米市場」。このルーツが堂島の存在意義にかかわるだけに、市場関係者は「象徴のコメ先物から撤退したことで、信用が下がりかねない」とする。

 大阪を世界の金融のハブに-。東京一極集中が進むなか、大阪の成長戦略の一つとして打ち出された金融都市構想。強みとして打ち出した先物で、柱の一つが欠けた。推進委は7月の戦略素案をもとに9月に骨子を固める予定だが、出だしからのつまずきをどう立て直すか。前途は多難だ。(敬称略)=この企画は岡本祐大、日野稚子、長嶋雅子が担当しました。

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