福岡県は、物流業界の二酸化炭素(CO2)排出量削減に向けた取り組みを後押しするため、まだ市販化されていない燃料電池(FC)トラックによる貨物輸送の実証事業に乗り出した。物流業者が実際の業務で県内の水素ステーションを活用して食料品や雑貨などを運んでいる。CO2削減が喫緊の課題となっている物流業界にとってFCトラックへの期待は高く、県は実証事業で実用性などのデータを集め市販化を支援し、普及を目指す。
県によると、FCトラックによる輸送実証事業に取り組むのは全国の自治体で初めて。
FCトラックは、水素と酸素の化学反応によって発電し、モーターを動かして走行する。車外に出されるのは水だけで、CO2を排出しない。バッテリーを充電してモーターを動かす電気自動車(EV)のトラックと比べ、燃料供給時間は大幅に短く、航続距離は約2倍に上る。騒音や振動も少なく、人手不足が課題となっている業界にあって、ドライバーの労働環境の改善も期待される。
実証事業では、トヨタ自動車から県が借り受けたFCトラック(積載量3トン)1台を使用している。県内の4事業者が参加し、8月から12月にかけて福岡、北九州、筑後、筑豊の県内4地域で、それぞれ実際の運送業務に活用する。日用品や建材など常温貨物と、弁当や生鮮品など冷蔵貨物の2種類を運ぶ。
県は、水素ステーションを活用した走行ルートなどの利便性▽冷蔵機器の温度管理や加減速などの実用性▽騒音や振動の軽減など快適性▽CO2削減量や燃費などの環境・経済性-を検証する。データはトヨタ自動車や運送業者と共有し、早期の市販化につなげ、その後の普及に役立てる。
服部誠太郎知事は「今後の物流業界のさらなる発展と脱炭素社会の実現に生かしていく」と説明する。実証事業に参画する県トラック協会の真鍋博俊会長は「CO2削減のためFCトラックの普及は不可欠だ。業界全体で裾野拡大に努めたい」と語る。
市販化や、普及に向けて課題の一つは価格だ。県自動車産業振興室によると、一般的なディーゼルトラックに比べてFCトラックは3倍程度が見込まれている。水素ステーションの整備も欠かせない。県内には現在11カ所あり、全国で4番目の多さだが、伊見浩太郎・同室長は「さらに増やしていくことが必要だ」とする。(小沢慶太)