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「異次元緩和は机上の空論だった」それでも日銀が“失敗”を認めない本当の理由 (1/3ページ)

 日銀の異次元緩和で日本経済はどう変わったのか。元日銀理事の山本謙三さんは「異次元緩和政策で2%物価目標を絶対視した結果、出口の見えない泥沼に陥った。財政赤字は拡大し、将来世代にツケを回し続けている」という--。

 ■根幹から変質した日銀の異次元緩和政策

 米国では、ワクチン接種の進捗に伴う景気の回復を受けて、金融緩和の出口を探る議論が始まった。一方、日本では緩和の出口が一向に見えない。日本銀行が掲げる物価目標は、前年比2%だ。しかし、7月に公表した日銀の経済見通しでは、2023年度も物価は1.0%にとどまる。

 異次元緩和の開始当初、「2年以内に達成する」としていた目標だ。これが一度も達成されることなく、すでに8年以上が過ぎた。日銀の見通しどおりであれば、開始から少なくとも10年は目標を達成できないことになる。

 この間、異次元緩和の政策は根幹から変質した。本来ならば政策全体を見直すべき事態である。しかし、日銀は変質を真正面から説明することなく、「2%目標」の見直しも行わない。金融政策の漂流は続く。

 ■「すべて講じる」から「待ち」の姿勢へ

 異次元緩和の変質を端的に示すのが、物価目標へのコミットメント(約束)だ。13年4月の開始当初、日銀は2年以内に目標を達成するとして、「施策の逐次投入はせず、必要な施策をすべて講じる」と言い切った。

 しかし、いまは、目標に達しない物価見通しにもかかわらず、追加の緩和措置を講じない。ただ「粘り強く金融緩和を続ける」とするばかりだ。「必要な施策をすべて講じる」とした当初の姿勢からは、180度の転換である。

 この姿勢は、各国中央銀行が標ぼうするインフレターゲティング(物価目標政策)の理念からも外れる。インフレターゲティングは、物価目標と見通しの間のギャップを測り、これを埋めるように緩和や引き締めを行う政策枠組みである。23年度でも大きなギャップが残るにもかかわらず、追加の緩和措置を講じないのは「ターゲティング」に当たらない。

 もちろん、背後にはゼロ金利制約があるだろう。しかし、日銀はゼロ金利制約の存在を認めない。むしろ「必要があれば、マイナス金利の深掘りも辞さない」とする。「必要があれば」というのは、異次元緩和の開始時に真っ向から否定した「施策の逐次投入」にほかならないが、特段の説明はない。追加緩和を講じない理由に、副作用を挙げるわけでもない。

 現在の日銀の主張を一貫した論理の中で理解することは、ほぼ不可能である。

 ■撤回された目標達成期限「2年」

 異次元緩和の変質は、当初のもくろみが完全に期待外れに終わった結果だ。

 もともとの政策フレームワークは、米国のノーベル経済学者、ポール・クルーグマン氏(ニューヨーク市立大学大学院センター教授)らが主張したロジックに依拠していた。(1)中央銀行が物価目標に強くコミットし、(2)量的拡大の継続を約束すれば、(3)国民の物価期待(インフレ心理)が高まり、(4)その結果実質金利が低下し、(5)経済活動が活発になる、という論理立てである。

 日銀が物価目標に「2年、2%」を掲げ、調節目標に量的指標「マネタリーベース」を採用したのは、まさしくこのロジックに沿うものだった。しかし、「量的緩和を約束すれば、国民の物価期待が高まる」という見立ては、完全な空振りに終わった。

 これ以上「2年、2%」を掲げても、国民は日銀の発信を信用しなくなるだけと考えたのだろう。2016年、日銀は「2年」を放棄し、目標達成期限を明示すること自体をとりやめた。

 ■しかし、「2%」は見直さない

 しかし日銀は、物価目標の「2%」は見直さない。自ら掲げた目標を8年以上達成できない以上、目標の適切さを疑うのが自然だが、「2%はグローバルスタンダード」といって、突き放す。さらに最近は、物価目標を達成できない理由として「適合的期待」(人々の根強いデフレ心理)の存在を強調する。

 適合的期待とは、「人々の物価予想は過去の経験に引きずられがち」との説だ。とくに日本人は過去の実績から「物価は将来も上がらない」とみる傾向が強く、これが物価を上がりにくくしているという主張である。

 しかし、1980年代半ば以降、物価が前年比2%を超えたのは、バブルの後遺症にあたる90~92年だけである(消費税率引き上げの年を除く)。いまさら「適合的期待」を主張されても、単に物価と経済の関係を読み誤っていただけにしかみえない。

 金融政策を適切な軌道に乗せるには、読み誤りの理由を深掘りする必要がある。「適合的期待」との言葉だけで、説明を終えてはならない。

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