福岡地所が福岡市中心部の天神地区で建設していた再開発ビル「天神ビジネスセンター」が完成し、4日、竣工式と内覧会が開かれた。市の再開発促進事業「天神ビッグバン」では同ビルを含めこれまでに43棟が完成しているが、規制緩和の適用を受けたビルとしては第1号となる。
ビルは天神地区を東西に走る明治通りに面し、地上19階、地下2階建て(高さ約89メートル、延べ床面積は約6万1千平方メートル)で、市営地下鉄の天神駅に直結する。最新鋭の免震構造を備えており、新型コロナウイルス禍に対応するため、空調機器やエレベーターなどの仕様を見直し、感染症対策にも万全を期した。
オフィススペースには、通販大手ジャパネットホールディングスが東京から本社機能の一部を移すほか、NECや米ボストンコンサルティンググループなどが入居する。来春には飲食店も開業する。
天神ビッグバンは、国家戦略特区を活用した福岡市のプロジェクトで、天神の中心から半径500メートルにあるビルの高さ制限や容積率などの規制を緩和した。
多くの夢が実現できる福岡に
「(再開発事業用地となった)西日本ビルなどの取得から新ビルの完成までに13年かかった。都心部での再開発は難しい課題だったが、(福岡市の)天神ビッグバンという規制緩和で強力に風穴をあけていただいた」
4日、天神ビジネスセンターを開発した福岡地所の榎本一郎社長は、あいさつでこう強調した。
福岡空港が間近にある福岡都市圏では、航空法に基づき建築物の高さが厳しく制限されていたことから、老朽化したオフィスビルなどの再開発を検討する際、大幅な増床が見込めず、民間の投資意欲がしぼみがちだった。新陳代謝が進む国内外の先端都市にオフィス環境などで後塵(こうじん)を拝し続けた結果、「支店経済」から抜け出せずにいた。
「天神ビッグバン」をはじめ、福岡市の高島宗一郎市長が旗をふる一連の都心再開発は、この状況からの脱却を狙ったものだ。高島氏は「単なるハードの建て替えではない。(入居企業という)ソフトを高付加価値に新陳代謝し、より多くの夢が実現できる街になることが重要だ」とする。
天神ビジネスセンターは、国家戦略特区を活用した規制緩和によって福岡都心部では歴史上にない高さと容積率を得た。ワンフロアあたりの面積は九州では最も広く、デザインや機能性などハード面は洗練されている。ただそれ以上にテナント誘致に心を砕いた。在京企業や外資系など約30社の入居が決まっている。
シェアオフィスなどを手掛けるソーシャルワイヤーはその1社だ。アジアのスタートアップ企業とも深いチャンネルを持つ同社の施設は、国内外20社程度の利用が決まっているという。福岡市では、創業支援施設「福岡グロースネクスト」(FGN)などを拠点に起業家育成に取り組み、政令指定都市では屈指の開業率の高さを誇る。高島氏は「FGNから生まれた卵が育ち、大きくなって高付加価値企業となったものが集積できる場所があることが大事だ」と語る。
榎本氏は、九州大学など地元大学の卒業生が九州域外に流出していく現状に対し「福岡で(業務内容や待遇上での)夢がかなうなら彼らは残る。優秀なプレーヤーも集まってくる」とした上で、「天神ビジネスセンターで働く5千人が、夢をかなえる姿が起爆剤になると信じている。東京でも、世界でも生めない価値を創出する努力をせいいっぱい支えたい」と力を込めた。(中村雅和)