深層リポート

地球温暖化でも高まるコメ冷害リスク 岩手大の下野教授が警鐘

 コメの国内生産量の4割近くを占める東北、北海道が冷害に見舞われたのは18年前の平成15年が最後。地球温暖化で国内のコメづくりが直面する目下の課題は高温障害による品質低下で、冷害への危機感は薄れる一方だ。ところが、東北、北海道では「冷害のリスクがむしろ高まる可能性すらある」と警鐘を鳴らしている専門家がいる。20年以上にわたってコメの冷害について研究を続けている岩手大学農学部の下野裕之教授(48)だ。どういうことか-。

 受精障害による冷害

 地球温暖化でも冷害リスクが高まる可能性があるのは障害型冷害だ。7月末~8月初めの花粉形成期(穂ばらみ期)に水稲が低温に見舞われ、十分な量の花粉ができずに受精障害が生じて不稔となる冷害を指す。減収が大きく、壊滅的な被害をもたらす。

 100年に1度といわれた平成5年の大冷害も同15年の冷害も障害型だった。低温になったのは、シベリアからオホーツク海に抜ける偏西風がシベリアから北極海近くまで北上してから南下してオホーツク海に抜ける蛇行が起こり、北極海近くの冷たい空気が入り込んだためだった。

 花粉形成期の稲は最も低温に弱く、十分な量の花粉を形成するには20度以上の日平均気温が必要とされる。大冷害の平成5年は6月初めから8月後半まで低温が続き、日平均気温が20度に達しない日がほとんどだった。15年も6月中旬~8月初めに同様の低温が続いた。

 5年の作況指数は東北が54、北海道が40と収穫量は通常の半分程度。親潮(寒流)の上を吹き渡ってくる冷たく湿ったやませ(偏東風)の常襲地帯で知られる青森、岩手両県の太平洋岸の作況指数は0~10とほとんど収穫がなかった。コメ不足でタイなどから緊急輸入する事態となり、被害額は東北で4960億円に上ったという試算もある。

 1週間のニアミス

 下野教授が恐れているのは低温と7月末~8月初めの花粉形成期がピンポイントで重なること。「この時期に1週間足らずでも低温に見舞われると、障害型冷害が起きます。受精障害になると、天候が回復しても取り返しがつかないからです」と説明する。

 気象庁のデータで同教授が盛岡市の日平均気温を調べた結果、平成16年~令和3年の18年のうち半分以上で、偏西風の蛇行ややませ、気圧配置などで7、8月中に日平均気温が20度に届かない1週間から20日前後の低温に見舞われていた。たまたま花粉形成期と重ならず冷害は避けられたが、平成16、17、18、19、23、24、30年と令和2年の8年は、低温から花粉形成期までわずか1週間のニアミスだった。

 地球温暖化が進んでいても、東北、北海道の7、8月の日平均気温は関東以西に比べ上昇はわずか。日平均温度が20度を下回る低温は平成16年以降2年に1度の割合で発生し、やませの頻度も減っていない。地球温暖化の原因である二酸化炭素の濃度を高めたコメの栽培実験で、耐冷性が弱まったという結果もある。

 下野教授は「地球温暖化は寒冷地のコメ生産を向上させ、冷害問題を解決すると思われがちですが、冷害は発生し続けています。どのように安定的に冷害を回避するかは今後も大きな課題です」と強調している。

 【冷害】 冷害は人々を飢饉という形で苦しめてきた。最も古い記録は日本書紀にある626年という。天明2(1782)年から同8(1788)年にかけて発生した「天明の大飢饉(ききん)」では餓死者が数十万から百万人にも達したとされる。冷害の発生回数を100年単位で集計すると、17世紀21回、18世紀25回、19世紀23回、20世紀24回。ここ4世紀は発生頻度に変化はなく、冷害は現代でも起き続けている。

 【記者の独り言】 平成5年の大冷害の記憶は今も鮮明だ。とんでもなく忙しい年だったからである。当時の勤務地は岩手県水沢市(現・奥州市)。米どころの県内陸南部が担当で、当時、自民党だった小沢一郎衆院議員(79)=立民=の地元。その小沢氏が自民党を飛び出し、7月の衆院選で政権交代、2、3カ月休みらしい休みがないまま、今度は大冷害である。しかも、水沢市はコメ不足発祥地。妻の「米がどこにも売ってない」の電話が発端だった。(石田征広)

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