試乗スケッチ

新型コロナでマツダが患者搬送用車両を開発 感染対策を施した「特装車」 (2/2ページ)

木下隆之
木下隆之

 後席からのウイルスの流出をシャットアウト

 さらに後席には、マイナスの陰圧を保つようべンチレーションを組み込んでいる。ラゲッジルーム側面に設置したフロアファンが車内の空気を強制排出。「HEPA」(High Efficiency Particulate Air)と呼ばれるフィルターを通して吐き出す仕組みになっている。つまり、ドライバーが座る前席から陽性患者が乗る後席には空気が流れるが、逆流はしない。むしろ陽性患者が撒いたウイルスは、フィルターで濾した後に排出されることになる。ドライバーも安心して患者を搬送できるわけだ。

 後席は消毒しやすいPVCシートカバーがかけられており、床は清掃がしやすいオールウェザーマットが敷かれている。さらに前席と後席の会話が成立しやすくするために、ハンズフリーの通話システムも備わる。コロナ患者は肺を患っている可能性が高く、会話が聞き取りづらい。しかも運転席と後席は隔壁で隔てられている。そのための配慮である。

 もともとマツダは、地域医療に積極的な社風で知られる。広島本社はマツダ病院に隣接しており、早くから感染予防シートの設置や、マスクやフェイスシールドを製作している。この搬送車両も開発がスタートしてから3カ月という短い期間でで初号機が完成した。医療関係者や罹患者からのヒヤリングを繰り返し、広島県と山口県の地方自治体に納入を開始。今ではマツダの特装車として全国で取り扱いを開始している。 

 運転した印象はごく自然なものだ。唯一の弊害は、前後との境に隔壁があるために、全席のシートスライドが制約されることぐらいであろう。搬送の緊急性を考えれば無視できるほど些細なことだ。

 マツダが率先して新型コロナウイルスに対峙し、医療体制を支えてくれていることが誇らしい。

木下隆之(きのした・たかゆき)
木下隆之(きのした・たかゆき) レーシングドライバー/自動車評論家
ブランドアドバイザー/ドライビングディレクター
東京都出身。明治学院大学卒業。出版社編集部勤務を経て独立。国内外のトップカテゴリーで優勝多数。スーパー耐久最多勝記録保持。ニュルブルクリンク24時間(ドイツ)日本人最高位、最多出場記録更新中。雑誌/Webで連載コラム多数。CM等のドライビングディレクター、イベントを企画するなどクリエイティブ業務多数。クルマ好きの青春を綴った「ジェイズな奴ら」(ネコ・バプリッシング)、経済書「豊田章男の人間力」(学研パブリッシング)等を上梓。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。日本自動車ジャーナリスト協会会員。

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