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コロナで壊滅のインバウンド、再開の議論望む声

 長引く新型コロナウイルス禍は国内旅行だけでなく、インバウンド(訪日外国人客)を壊滅状態に追い込み、地方創生の柱となってきた観光産業の疲弊感は色濃い。海外ではワクチン接種を条件に外国人旅行客の受け入れ再開を進める国が増えているが、日本は再開のめどが立っていない。31日投開票の衆院選では、政府の観光支援策「Go To トラベル」の再開が争点の一つだが、その先の議論を望む声も強い。(本江希望)

 「ハグをされると、最初は恥ずかしかったけど、だんだん慣れてきたよ」

 山形県飯豊(いいで)町の中津川地区で農家民宿を営む伊藤信子さん(82)は照れ笑いを浮かべ、外国人観光客との交流を振り返る。

 山々に囲まれた田園風景に古民家が点在する同地区は、昭和56年完成のダム建設で約3千人の人口が約300人に減少。高齢者が5割を超える「限界集落」となった。「何とかしなければ」と奮起した伊藤さんたちが平成19年に始めたのが、自宅の一部を客室として提供する農家民宿だった。

 当初は学生の教育旅行が中心だったが、町の観光協会が企画したツアーで台湾人観光客の受け入れに成功。地元食材を使った料理や心尽くしのおもてなしに「帰りたくない」と涙ぐむ参加者もいたという。

 道の駅などの施設もツアーの立ち寄り先として人気を集め、町全体ではコロナ禍前の30年に台湾から年間3800人以上が訪れた。コロナ禍の感染防止対策で全ての民宿が営業を休止し、今月に一部を除いて再開したものの、経営側に高齢者が多いため、いまだ感染への不安も大きい。

 「県外からの問い合わせは増えているが、地元の人たちは『ウィズコロナ』ではなく、『ノーコロナ』という意識が強い。感染への恐怖心はまだまだ薄れていない」。観光協会の高橋達哉さん(36)は複雑な思いを打ち明ける。

 現在も台湾の旅行会社と連絡を取り合っているが、「日本の感染対策は緩いのではないか」という声も聞かれるという。「インバウンド再開のためには感染対策を徹底し、国民だけでなく、海外の国や地域の信頼を得ることも重要だ」。高橋さんはこう訴えた。

 政府が「観光立国」を宣言したのが平成15年。27年にはインバウンドがアウトバウンド(日本人海外旅行者)を逆転し、令和元年の訪日外国人客は3188万人、消費額は4・8兆円に上った。2年に4千万人とする目標が現実味を帯びる中、コロナ禍で412万人に落ち込み、今年上半期は9万6300人だった。

 国内有数の観光地、東京・浅草でも訪日外国人客の姿が消えて久しい。コロナ禍前、宿泊客の95%が訪日外国人客だった旅館「浅草指月(しげつ)」の飛田克夫社長(83)は「外国人が戻ってくるのをいつまで待てばいいのか」と話す。

 浅草寺近くに昭和25年に創業し、70年以上の歴史を持つ。ビジネスホテルの台頭で旅館の経営が右肩下がりになる中、長男が英語を習い始めたのをきっかけに40年以上前から外国人客の受け入れを始めた。

 日本の衣食住や旅館文化を伝える宿として欧米を中心に人気を集め、長期滞在やリピーターも多かった。それが新型コロナの感染拡大で、予約はほぼゼロになった。周辺では日本人客向けに切り替える土産物店も多いが、訪日外国人客を中心とした経営方針を変えるつもりはないという。

 「インバウンドの受け入れは、日本の文化を世界に伝えていく意味でも重要。おもてなしの原点に立ち返り、また外国人客を迎えたい」。飛田さんはそう願っている。

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