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ロスを見逃し本末転倒 次世代エネルギーの水素で報じられない「不都合な真実」 (3/3ページ)

 水の電気分解で作ると、先述したように、電力→水素→(燃料電池or燃焼)→電力となって、単なる電力の無駄遣いになってしまう。要するに、水素を燃やして発電燃料に使うのは、何重にもエネルギーを無駄遣いすることなのである。

 その2:燃料を作る

 もう一つの水素利用ルートは、燃料を作ることである。

 最も有名なのは、CO2に水素(H2)をくっつけてメタン(CH4)を作る「メタネーション」である。メタンは気体だが、もっと炭素(C)を多くすると炭化水素(Cm Hn)液体燃料ができる(注:m、nは自然数)。欧米で注目されている「e-Fuel」などがその例である。

 また、空中窒素と水素を反応させてアンモニア(NH3)を作る方法もある。これらはいずれも、化学的には元の物質(CO2やN2)に水素(H2)をくっつける反応(還元)なので、外からエネルギーを加えないと反応が進まない。人工的なアンモニア合成法として、工業的にはハーバー・ボッシュ法という高温高圧プロセス(数百℃・数百気圧が必要)が使われており、できたアンモニアの保有エネルギーは、原料の水素の約半分に目減りしている。

 メタネーションなどは、CO2から燃料が作れる「夢の燃料製造」との触れ込みでマスコミは囃し立てているが、先述からもわかるとおり、実質は水素(H2)の消費であり、その水素を天然ガス(メタンが主成分)から作るのでは水素を消費して元のメタンに戻るだけであるし、電気分解で作った水素を使うのは、電力の無駄遣いでしかない。本当に、何をやっているのか訳がわからない。

 水素を原料として燃やすのはもったいない

 また燃料であるから、結局は燃やして使うのであり、熱機関(熱を動力に換える機関。エンジンや蒸気機関など)の効率は一般に低いことも忘れてはいけない。電気モーターは、電力→動力の効率が90%台であり、燃料電池は水素→電力の効率が約60%であるのに対し、自動車エンジンの効率は10~20%以下、最新鋭の大型火力発電でも42%程度である。

 水素を原料とした燃料を燃やすのは、いずれにせよエネルギー損失が大きく、もったいない方法といえる。CO2が出ない燃料といって喜ぶのは早すぎる。これからは、エネルギー効率の高い手段を選ぶべきである。

 水素を燃やすのがもったいないならば、その水素を原料として大量のエネルギーを使って合成したアンモニアを燃やすのが、さらにもったいないことは明らかである。こうなるともはや、正気の沙汰とは思えない。CO2を出さないことしか眼中にないから、そうなるのだが。

 環境に優しいはずが温室効果ガスを生成する皮肉

 さらに、アンモニアを燃やしたら、厄介な窒素酸化物(NOx)が発生する。

 NOxは酸性雨、オゾン層破壊、光化学スモッグ、PM2.5などの原因物質であり(N2Oは温室効果ガスでもある)、大気汚染物質の中でも最も被害の影響範囲が大きく、かつ処理の難しい物質である。CO2を出さない代わりにNOxを出す……こんな本末転倒があるだろうか?(NOx自体は直接的な温室効果を持たないが、各種化学反応によって温室効果ガスを生成するので間接的温室効果ガスと呼ばれる)

 ちなみに、ゴミ焼却施設や火力発電所のNOx排出抑制には、アンモニアが使われている(脱硝設備)。窒素酸化物(NOx)を処理するために大気中窒素からアンモニアを作り、それを消費する。その処理過程で窒素(N2)は大気に戻り、正味で消費されるのは水素である。何と皮肉な巡り合わせであることか。

 松田 智(まつだ・さとし)

 元静岡大学教員

 2020年3月まで静岡大学工学部勤務、同月定年退官。専門は化学環境工学。主な研究分野は、応用微生物工学(生ゴミ処理など)、バイオマスなど再生可能エネルギー利用関連および環境政策。

 (元静岡大学教員 松田 智)(PRESIDENT Online)

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