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余剰酒米で新たな酒造り コロナ禍でもポジティブ思考

 長野県飯山市の造り酒屋「田中屋酒造店」が、余る予定の酒米を活用した新たな酒造りに消費者とともに挑戦する。2年前の台風19号で麹室などの酒蔵設備が浸水の被害を受け、昨春からは新型コロナウイルス禍による需要減と、ご難続きの中、インターネット上で資金を募るクラウドファンディングの募集を始めた。ただ「援助してもらうようなものにはしたくない」と、通常の商品をそのまま売るのではなく、香りの豊かさを高めた新しい日本酒を造る意気込みだ。

 台風、コロナで受難

 同酒造店は、北信地方の水尾山にちなむ銘柄「水尾」で知られる。台風19号の被害から2カ月遅れで何とか酒造りを再開したが、昨春からのコロナによる飲食店の営業時間短縮などで売り上げが減少した。

 契約栽培米の「ひとごこち」について今年分の作付けは農家に「減らさせてもらった」が、それでも買い取りの1割に相当する9トンが余る見込みになった。

 田中隆太社長(56)は「2年続けて作付けを減らすようになれば、農家も酒米を作る意欲がなくなってしまう」。何とか今年の全量をこの冬に酒にして販売したいが、店舗でも買える商品をただネットで売るという形でなく、満足もしてもらう手段がないかと検討。これを機に新たな技術に挑戦することにした。

 低アルコールで醸造

 田中社長によると、通常の日本酒は酵母や製造法の特性でアルコール度が18%程度の原酒ができ、飲みやすいように割り水で薄めて商品に仕上げている。しかし、実は水を加えた後の攪(かく)拌(はん)などの工程で、香り成分が飛ぶなどしてしまっているという。

 そこで最近、先進的な酒蔵で13~15%程度のアルコール度の原酒を作る方法が試みられている。イメージとしては、少しずつ水を加えながら低いアルコール度を保つというもの。最後に水を加える方法と比べ、ガス感なども高められ、アルコール以外の味や香りも整ったものになるはずだという。

 ただ、低アルコールの発酵では予期しない化学変化などでおいしさを損ねるにおいもできやすく、温度管理や使う麹菌などいくつもの課題がある。2年前に1度だけ試したがその後の混乱でストップしていた。

 出資者と過程を楽しむ

 今回のクラウドファンディングでは、長野県による送料やサイト作成費の補助制度も活用し、低アルコール酒を3回に分けて配送する。最初に届く1回目は、まず何十年もかけてきた伝統的な手法をベースに造り、2回目は他の酒蔵などで取り入れている新しい手法を採用。3回目にそれぞれの長所を取り入れた「完成形」にする。

 途中で出資者から寄せられた意見も反映させ、次世代の日本酒造りを一緒に行う過程も楽しめる参加型企画にしたい考えだ。

 田中社長によると、酒米は契約農家に発注してから、それをもとにできた酒が売り切れるまでに3年かかるという。クラウドファンディングが成功すれば、来秋の発注を今年と同程度にでき、農家も含めた酒造りのサイクルが再び回り始める。そうしてこそ、美しい田園風景を守っているという誇りも保てるという。

 クラウドファンディングのサイトは「キャンプファイヤー」。720ミリリットルびん3本のタイプが1口6千円、1・8リットルびん3本のタイプが1口1万2千円。発送は11月下旬、12月下旬、来年1月中旬の予定。いずれも、搾りたてを大事にする「生」か、味の変化が進みにくい「火入れ」かを選べる。詳細は、https://camp-fire.jp/projects/view/491295。(原田成樹)

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