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ビール離れの若者大ウケ…コカ・コーラが初のお酒「檸檬堂」をヒットさせた戦略 (1/2ページ)

 コカ・コーラの缶チューハイ「檸檬堂」が好調だ。2019年に全国発売してから3年目を迎える2021年9月末時点で115%となった。若者のお酒離れが進んでいるといわれる中、なぜ幅広い世代に売れているのか。経済ジャーナリストの高井尚之さんが取材した--。

 初のアルコール事業参入で大ヒット

 世界中で飲まれている100年ブランド「コカ・コーラ」(炭酸飲料)をはじめ、「ジョージア」(コーヒー飲料)や「綾鷹」(茶系飲料)など多くの清涼飲料ブランドを持つコカ・コーラ社(日本法人の社名は日本コカ・コーラ株式会社)。

 その会社が、近年はアルコール飲料にも力を注ぐ。

 「あのコカ・コーラが酒類を出す!」と業界で話題を呼んだのが、2019年10月に全国発売された「檸檬堂」だ。2018年5月に九州限定で発売された翌年、関門海峡を超えた。

 レモンサワー人気に目をつけて開発した缶チューハイは、通年販売となった2020年度の年間出荷数量が790万ケースを記録した(コカ・コーラ ボトラーズジャパンの発表数字、350ml換算)。人気に目をつけた競合からも低アルコールやノンアルコールの類似の缶飲料が発売され、小売店の店頭にはレモンサワー系の商品群ができた。

 だが、コカ・コーラ社がアルコール飲料発売に踏み切ったのは「史上初」(同社)。これまでは“禁断の果実”だった。なぜ、その一線を越えて酒類事業に進出し、第2弾、第3弾を投入したのか。同社の責任者に取材した。

 酒類大手3社がひしめき合う不利な市場だったが…

 「発売の数年前からアルコール飲料の検討を進めていました」

 同事業を管轄する関口朋哉さん(マーケティング本部 アルコールカテゴリー事業本部長)はこう話し、発想の原点を説明する。

 「実は、コカ・コーラの全社パーパス(事業目的・存在意義)に『Refresh the World. Make a Difference.』(世界中をうるおし、さわやかさを提供すること)という言葉があります。事業活動の骨格を成すもので、飲料でどうさわやかさを提供するかを考えていました。アルコールはその延長で、『檸檬堂』によって少しは酒類ブランドがつくれたと思います」(同)

 酒類のプロジェクトチームが立ち上がったのは2017年ごろ。「炭酸や果汁など当社の知見やノウハウが生かせる視点で考えると、低アルコールのチューハイは有力な候補でした」(同)

 同社が清涼飲料で競合する大手メーカーに、サントリー、アサヒ、キリンがある。3社ともグループ企業でアルコール飲料を手がけ、ビール類からウイスキー、チューハイ、ワインなども展開する「総合酒類メーカー」だ。工場や醸造所などの設備も充実する。

 一方、コカ・コーラ社が未知の酒類事業で行うことができる自社リソースは限られる。缶チューハイは魅力的な市場だが、すでに上記の3社をはじめ数多くの商品が出ていた。

 だが、その後発を跳ね返すヒントがあった。

 実は「アルコール離れ」していなかった

 「アルコール飲料の開発ノウハウがないので、まずは現場を知ろうと、いくつかの居酒屋に行き、プロジェクトチームが立ち上がってからは各メンバーで連れ立って、バーやスナックなどの酒房も回りました。世の中全体のお酒のトレンドを見つめ直したのです」

 マーケティングには定評があるコカ・コーラ社だが、消費者調査や市場調査データでは出てこない「現象」を探りに行ったのだ。「現場・現物・現実」(を見る)の手法だ。

 「それを行ううちに、レモンサワーにこだわる店が多く、1杯1000円で出す店や10種類のレモンサワーを出す店など、さまざまな提供の仕方も知りました。楽しく味わうお客さんを見るうちに『若者を含めた幅広い年代向けのレモンサワーに特化した商品』というコンセプトが芽生えたのです」

 近年は若者の「アルコール離れ」もよく耳にする。商品開発の上でネックになることはなかったのだろうか。

 「ビール市場は確かに縮小傾向が続いていますが、アルコール全体が飲まれなくなったかというとそうではない。多くの居酒屋を巡る中で『ビール以外なら飲みたい』というユーザーは一定数おり、これならいけると確信しました」

 レモン果汁をあらかじめお酒になじませる製法

 調査を続けるうちに「前割り焼酎」という作り方も知った。九州では一般的で、焼酎を事前に水で割っておくやり方だ。これにヒントを得て、丸ごとすりおろしたレモン果汁をあらかじめお酒になじませた「前割りレモン製法」が「檸檬堂」に結実した。

 筆者もコロナ前、本稿の担当編集者(福岡県出身)の勧めで、一緒に都内のレモンサワーの人気店に行ったことがある。入口には木箱に入った生のレモンがディスプレーされ、店内は多彩な商品が提供されていた。満席で若い世代も多く、居酒屋のレモンサワー人気を改めて感じた。ちなみに担当編集は昔から「前割り焼酎」になじんでいたという。

 「データだけを見ていくと、違う結果になったかもしれません。それまで缶のレモンサワーを出すメーカーはほとんどなく、お客さま目線の商品開発ができました」(関口さん)

 いろいろ工夫しても「本当に売れるのか心配でした」

 「檸檬堂」の特徴は、他にもある。ネーミングや商品パッケージだ。

 「レモンサワー専門ブランドとして、商品名はいろいろ考えました。最終的に日本の酒場文化も伝えたい思いで、漢字の商品名を採用。パッケージも古くて新しいレトロモダンにしようと、文字にも工夫。缶の色は酒屋さんの前掛けをイメージするなど、人のぬくもりを感じるデザインにしています」

 あらためて見てみると、随所に工夫された和風のデザインだ。清涼飲料で日本市場を熟知しているとはいえ、これを外資系のコカ・コーラ社が手掛けたのが興味深い。

 「勝算はあったのですか?」と聞いてみたが、「本当に売れるのか心配でした。九州で限定発売した後は、『他の地域でも飲みたい』という声も多く、手ごたえを感じましたが」と関口さんは正直に明かす。ちなみに九州地区での先行販売は、前述の前割り焼酎の文化があるから選んだのではなく、テストマーケティングの地域として適正の人口規模だったとか。

 「檸檬堂」は全国発売3年目の2021年も好調だ。2019年の全国発売から2021年9月末時点では115%となっている。※出典:インテージSRI+,低アルコール市場,累計販売金額,2020年10月-2021年9月前年同期比/7業態計(SM、CVS、HC、DRUG、酒量販店、一般酒販店、業務用酒販店)

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