九州・山口8県の地方銀行の令和3年9月中間決算が12日に出そろい、20行のうち、7割に上る14行が最終利益で増益を確保した。堅調な金融市場を背景にした投資信託販売やコンサルティング業務の手数料収入増加、新型コロナウイルスの影響が想定を下回ったことによる信用コストの減少が主な増益要因となった。ただ、コロナでダメージを受けた経済の回復にはいまだ不透明感が漂い、4年3月期の通期予想は保守的な見方が大勢だ。
「久しぶりにフォローの経営環境の中で業務展開ができた」
ふくおかフィナンシャルグループ(FG)の柴戸隆成会長兼社長は、中間決算としては2期ぶりの最終増益となった4年度上期を、こう振り返った。
平成28年に始まった日銀のマイナス金利政策は長期化し、出口は見えない。加えて昨年来のコロナ禍で金融機関にとっては長く厳しい経営環境が続いていた。
各行にとって追い風の一つが堅調な金融市場の動向だ。日経平均株価は前年同期、「コロナショック」によって1万円台後半から2万円台前半まで落ち込んだが、今年は2月に30年ぶりに3万円を超えて以降、2万9千円前後で推移した。
ふくおかFGは、好調な市場環境を背景に、投資信託などを積極的に売り込んだ結果、資産運用商品の販売額は前年同期比478億円増の2344億円となり、利益を押し上げた。
増収増益だった西日本フィナンシャルホールディングスも、傘下の西日本シティ銀行で有価証券利息が増えた。同社は中期経営計画で「有価証券運用力の強化」を柱の一つに掲げており、村上英之社長は「体制強化を図る中、堅調な市場環境もあり増益に寄与した」と振り返る。佐賀銀行も有価証券利息が同3億円増だった。
マイナス金利下で貸出金利息の伸びが期待できない中、各行とも非金融部門での収益拡大に注力する。
九州FGは傘下の肥後銀行で、SDGs(持続可能な開発目標)に対応した法人コンサルティングを展開し、4~9月で50社以上から業務を受託した。こうしたコンサル手数料を含む役務取引等利益は肥後銀単体で同5億円増加した。
各行にとって、もう一つの追い風となったのは足元の経済状況だ。
多くの銀行で前年同期はコロナの影響を懸念し、取引先の倒産などに備える信用コストを予防的に積み増していた。しかし、政府や日銀によるコロナ対応の資金繰り支援を受け、各金融機関が積極的に融資に動いた結果、倒産件数は低水準が続く。信用コストは20行のうち10行で減少し、損益の改善につながった。
山口FGは信用コストが同30億円減の41億円に収まり、4期ぶりの増益となった。大分銀行も同28億円減で、11億円の戻り益があったことで大幅な増益だった。
中間決算が比較的好調だった一方で、今後の見通しについては各行ともまだ楽観視していない。4年3月期の通期業績予想は据え置くか、上方修正したものの中間決算分を上乗せしたしただけにとどまる銀行がほとんどだ。
九州FGの笠原慶久社長は、好調な業種と落ち込みが続く業種で二極化する「K字回復」の傾向を指摘。「飲食や宿泊を中心に厳しい状況が続いてきた。そうした業界では新たな資金需要は出てこないと思うが、回復に向けてしっかりと支えていかなければいけない」と話す。
山口FGの椋梨敬介社長は「コロナの感染はかなり収まってきているが、変異種などがどうなるか、まだ不確定要素がある」と述べた。(小沢慶太)