創造は情報の組み合わせから

人工知能時代を生きる
「人工画家・静7号」が描いた絵画

 ■「偶然の良作」人間が判断

 小説の冒頭はこんなふうに始まる。

 〈スマホが鳴った。深夜1時頃。ここは研究室の中。鈴木邦男は、先月ここに配属されたばかりであるが、平均帰宅時間は既に深夜0時を超えている。〉

 SF作家の星新一さんの作品をコンピューターに読み込ませ、「ショートショート」と呼ばれる超短編小説を人工知能(AI)が書くプロジェクト。人間がおおまかなプロットを与え、登場人物や場所などを変数にして、AIが文章を肉付けする。

 ただ、破綻なく読めるのは現状では数百字まで。プロジェクトを統括する公立はこだて未来大の松原仁教授(57)は「大事な部分は人間がやっていて、AIの関与は1割ほど。私がこの小説を書けないという意味で『コンピューターが書いた』とも言えるが、まだこちらの意図したようにしか書けない」と話す。

 同じ大学の迎山和司准教授(47)は、AIによる絵画を研究している。「人工画家・静7号」は、読み込んだ人間や動物などのシルエット画像をパーツに分割し、それらを組み合わせて自律的に描く。鳥と人間の画像から、人間の腕が羽になっている絵が出来上がることもあるが、「鳥人間という認識で描いているわけではない」と解説する。

 AIがどんなに進歩しても、創造性は人間にアドバンテージがある分野とされる。革新的な「イノベーション」や芸術など創造性にまつわる脳のメカニズムは解明されておらず、AIには教えることができないからだ。

 創造性は、無から有を生み出すのではなく「異質な情報群を組み合わせ、統合して問題を解決し、新しい価値を生むこと」(日本創造学会)と考えられている。その主体は、あくまで人だ。

 創造学会の高橋誠理事(73)は「人間の頭の中には多くの情報があるが、常識や経験則などが良い組み合わせの阻害要因になっている」とみる。

 AIは、先入観を持たずに無限の組み合わせを実行するため、“創造的”なものがたまたま生まれる可能性はある。松原教授は「基本的には確率の問題」とみており、「良質な組み合わせ」の頻度をどうやってあげていくかが今後の課題だ。

 小説のラストでは、眠気を解消してほしい「邦男」の要求を、悪魔が聞き入れ呪文(じゅもん)をつぶやく。

 〈邦男の眠気はさっぱりと消え飛んだ。レポートもばっちり書けた。しかしそれ以来、邦男は一睡もすることができなくなった。〉

 決まったように見える“落ち”も、今のところは偶然の産物のようだ。

                   ◇

 日本では今後20年以内に労働者の約半数の仕事が、AIやロボットに代替されると予測されている。急速に進歩するAIの得手不得手を知ることは、人間に固有の力とは何かを理解することにもつながる。テクノロジーとの共存が待ち受ける未来を展望する。