東大入試突破へ実力着々

人工知能時代を生きる
「東ロボくん」のプログラムを検証する日本ユニシスのチーム=東京都江東区

 ■ただいま偏差値58 論述も平均点以上

 人工知能(AI)は東大入試を突破できるか-。そんな疑問を10年かけて検証する計画が2011年から始まった。「東ロボくん」と名付けられたAIは15年度、大手予備校の大学入試センター模試で偏差値58を記録。苦手とみられていた論述もそれなりにこなし、着々と成績を上げている。

 プロジェクトを率いる国立情報学研究所の新井紀子教授(53、数理論理学)は「AIとの共存で人の未来がどうなるのか、人に残される領域がどこかを探りたい」と意気込む。

 東ロボくんは、研究者が教科ごとにチームを組んで開発するAIプログラムの総称。15年度マーク模試では5教科8科目で偏差値58と、多くの国公立大や私大の合格水準に達した。世界史は偏差値67をたたき出し担当した日本ユニシスのチームは「教科書の暗記でできる問題が多く、得意な分野だ」と説明する。

 ただ、今回初めて挑戦した2次試験の世界史の論述は「西欧とアジアの国家体制の変遷」がテーマ。600字という長文論述のため、文章の理解や自律的な思考ができないAIにとって、苦戦が予想された。

 ところが、蓋を開ければ偏差値は54と受験生の平均を上回った。「使った手法はとても単純で検索と要約機能だけ」とチームのメンバー。問題文と同じ単語が多く含まれるような「類似性が高い」文章を教科書や用語集から探し出し、字数制限を超えないようにつなぎ合わせただけだ。

 出来上がった答案は、冒頭から「そのため」で始まったり、前後の脈絡を無視した文章があったりと不自然な構成も目につく。だが、必要な語句が含まれていたため、部分点を獲得していた。

 採点に関わった予備校講師からは「この答案は知識を詰め込んだだけの受験生が書くものとよく似ている」との声も。

 出題の狙いは「宗教統制で絶対王制を確立したフランスと、異なる思想と体制で多民族国家を形成したアジアとの対比」だったが、東ロボくんの答案は歴史を因果関係として理解しておらず、個々の事柄の説明に終始していたという。

 論述問題では、問題文から出題者の意図を推察しながら、求める論旨に添って具体的な事実を挙げ、答案を作成する能力が求められる。

 新井教授は「計画は順調だがここから先は画期的に成績を伸ばす方法が見当たらない」と東大合格の難しさを認めつつ「教科書を必死に暗記し、無理して大学に行ったとしてもそれなりの人生を送れていた時代はAIの発展で終わりを告げた」と語った。